E2644 – 講演会「誰もが読書できる社会を目指して」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.467 2023.11.02

 

 E2644

講演会「誰もが読書できる社会を目指して」<報告>

沖縄県立図書館・﨑山理沙(さきやまりさ)

 

  2023年9月14日、沖縄県立図書館は、読書バリアフリー講演会「誰もが読書できる社会を目指して」を開催した。専修大学から野口武悟教授と植村八潮教授を招き、読書に困難を抱える人々の現状について知り、図書館ではどのような支援ができるのか考える機会とした。本稿では講演会の内容を紹介する。

●講演1「読書困難をかかえる人々のニーズと対応」

  野口氏から「読書困難をかかえる人々のニーズと対応~誰もが読書をあきらめなくていい環境づくりに向けて~」と題した講演があった。冒頭で、第169回芥川賞受賞作『ハンチバック』の著者・市川沙央氏が指摘した、健常性を満たすことを要求する読書文化・環境の問題点について触れ、視覚障害者等が読める形態の書籍等の割合が先進国では7%程度、開発途上国では1%未満という現在の読書環境は、障害を抱える人にとっては読みたくても読めない「本の飢餓」状態であるとした。

  2019年に制定された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法;CA1974参照)について解説し、具体的にどのような状態の人々が対象になるかを示した。視覚障害といっても、全盲やロービジョン、色覚障害等、障害の状態によって支援ニーズが変わる。また、視覚障害以外にもディスレクシアや、肢体不自由、知的障害、認知症のある高齢者、音声言語をベースとする読書に読みづらさを感じやすい聴覚障害等、見えない・見えづらい以外にも読書に困難を抱える状況は様々であり、各々のニーズに合わせた支援が必要である。これらのニーズに対応するには、音声資料や大活字本、LLブック等の資料や、拡大読書機や音声読書機等の機器、また、郵送貸出や電子図書館等の利用サービス、それぞれの充実が求められる。誰もが無料で等しく利用できる図書館の果たす役割は今後ますます大きくなる。そして、そういった対応をするためには司書の配置を充実させ、しっかりと予算を確保する必要があると述べた。超高齢社会の現在、「読書バリアフリー」は誰にとっても切実であり、他人事ではなく「自分事」として捉え、知ること、伝え・広めること、生かすことが大切であるとした。

●講演2「学校図書館×ICTを最大限に生かす」

  植村氏から「学校図書館×ICTを最大限に生かす~電子書籍の動向と図書館サービス~」と題した講演があった。まず日本の出版業界の現状は紙媒体の本と雑誌が減少する一方、電子書籍が売上を伸ばしている。特に電子コミックによって新たな産業が誕生しデジタルトランスフォーメーション(DX)が起こったと言え、出版業界はデジタルによって支えられている状況へと劇的に変わったと説明した。

  電子図書館は、新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のための外出自粛や休館措置の状況の中でも、利用者に読書機会を提供するために多くの図書館で取り入れられた。公共図書館における導入メリットとして、非来館での貸出が可能、配架や督促の作業がなく貸出の回転率が高い点等を挙げた。また、電子書籍の機能によって文字拡大や音声読み上げ、色の反転等、アクセシビリティに配慮したサービス提供が可能だとした。電子書籍の資料収集方針(選書基準)として、視覚障害者や高齢者の読書支援のため、文字の拡大や読み上げ機能がついた資料を積極的に収集するとしている図書館の事例を紹介した。電子図書館の機能によって紙媒体ではできなかったサービスが可能なため、積極的に取り入れるべきであるとした。

  また、GIGAスクール構想実現に向けた予算の配分や取組によっても電子図書館は大きく普及した。2016年に野口氏と植村氏が実施した調査「学校図書館における電子書籍の利用モデルの構築」の結果を示し、子どもの読書環境のデジタル化が起こっていると述べた。GIGAスクール構想以前から、塾等の教育産業ではICT活用が進んでおり学習用タブレットも普及していた。立川市図書館(東京都)は「学校用たちかわ電子図書館利用カード」を市内の小中学校に配布することで電子図書館の利用が伸びたという。2022年に文部科学省が公表した「1人1台端末環境下における学校図書館の積極的な活用及び公立図書館の電子書籍貸出サービスとの連携について」では、GIGAスクール構想と学校図書館の関わりについて初めて言及された。2023年の第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」では、電子書籍の重要性に触れられている。教育における情報化は加速し、デジタル教科書は導入期を経て活用期に入ったとした。今後も学校図書館や読書バリアフリーにおいてICTは必須であり、学校図書館がDXによって「情報センター化」を進めるためには人材、もの(電子図書)、予算が重要であると語った。

●さいごに

  沖縄県立図書館運営方針では、「県民に開かれた知の拠点」を目標とし、その施策の一つに「障害者等サービスの充実」を掲げている。本講演会でも障害の有無に関わらず誰もが読書できることの重要性が説かれたことを踏まえ、今後も館を挙げて読書バリアフリーの推進に努めていきたい。なお、本講演会の動画は当館公式YouTubeチャンネルにて2024年9月14日まで限定公開している。申込みの上、視聴されたい。

Ref:
“※申込受付中【オンデマンド配信】読書バリアフリー講演会「誰もが読書できる社会を目指して」”. 沖縄県立図書館.
https://www.library.pref.okinawa.jp/gyoji/post-79.html
“視覚障害者等の読書環境の整備(読書バリアフリー)について”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1421441.htm
電子出版制作・流通協議会, 専修大学電子書籍研究プロジェクト. 学校図書館における電子書籍の利用モデルの構築 報告書. 電子出版制作・流通協議会. 2016, 123p.
https://aebs.or.jp/pdf/School_library_e-book_usage_model_report.pdf
1人1台端末環境下における学校図書館の積極的な活用及び公立図書館の電子書籍貸出サービスとの連携について. 2022, 2p.
https://www.mext.go.jp/content/20220810-mxt_jogai01-000011648_1.pdf
“第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」について”. 文部科学省. 2023-03-28.
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/mext_00072.html
沖縄県立図書館運営方針(令和3年度~令和7年度). 沖縄県立図書館, 2021, 14p.
https://www.library.pref.okinawa.jp/about/docs/17808f31a30b3e64a31e6c7ff0742948.pdf
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684