E2541 – 日本発のプレプリントサーバ「Jxiv」運用開始について

カレントアウェアネス-E

No.444 2022.09.29

 

 E2541

日本発のプレプリントサーバ「Jxiv」運用開始について

科学技術振興機構・小川ゆい(おがわゆい)

 

●はじめに

  学術情報流通において,近年COVID-19を1つのきっかけとして研究成果の早急な共有が研究コミュニティに求められ,論文をジャーナル(査読付き学術誌)へ投稿する前,あるいは投稿と同時にプレプリント(査読前論文)を公開することが急増している。物理学,化学,生物,医学,社会科学などの分野別のプレプリントサーバを介し,世界の研究コミュニティにプレプリントが積極的に受け入れられるなか,日本からのプレプリントの公開はまだ少ない。他方,第6期科学技術・イノベーション基本計画においては,オープンサイエンスとデータ駆動型研究等の推進の一環として,プレプリントを含む文献など,研究成果に係る情報を広く利用できる環境整備の推進が求められていた。

●Jxiv(ジェイカイブ)の設立背景

  プレプリントを広く利用できる環境整備を図るべく,科学技術振興機構(JST)は日本にプレプリントサーバを構築することについて学協会等と議論を行い,プレプリントサーバを構築する際に求められる要素(投稿分野,投稿言語など),懸念点について各分野から意見を収集した。

  投稿分野の議論では,すでに分野別プレプリントサーバが確立している分野での設立要望は高くなかった。しかし,既存の分野別プレプリントサーバは投稿言語が実質的に英語であり,研究者が速報性を重視して日本語で論文を執筆したとしても投稿できるところが限られていたため,日本人が閲覧,投稿しやすい日本語のプレプリントサーバの開設を期待する意見もあった。また,プレプリントサーバが設立されていない分野,例えば学際分野等では,プレプリントサーバの構築により学術情報流通が加速し,研究が発展することが期待できた。

  これらの意見をもとに,投稿分野に制限を設けないこととした。言語については前述のとおり,英語だけでなく日本語の投稿も受け付けるプレプリントサーバが構築されると国内研究者のプレプリントの公開,閲覧が増すという意見があったことから,構築効果の確認をさらに進めた。情報を集めたところ,筑波大学では「筑波大学ゲートウェイ」(E2288参照)の構想を発表しており,特に人文学や社会科学分野では,特定の文化の哲学,歴史,文学,社会,法律,経済等に特化した研究が多いこともあり,地域言語で論文を出版する価値を唱えていた。日本語の投稿を受け付けるプレプリントサーバは,上記分野の研究成果の迅速な公開およびオープンアクセス化に貢献することが期待できた。

  最後に,プレプリントの質を懸念する意見への対応を検討した。プレプリントは査読前論文であり,専門家の査読を経ずに原稿が公開されるため,データの信頼性,信憑性について保証することはできない。そこで投稿者を研究者に限定し,投稿原稿に対してはJSTが最低限のスクリーニングを行い,一定の品質を運営面で担保することを図った。なお,最低限のスクリーニングは,論文の体裁や論理的・法的リスク,既出版論文との類似度等に関する基本的な確認であり,査読とは異なる。

  上記を基本仕様とし,開発を進め,研究成果の迅速な公開とオープンサイエンスの推進を目指し,2022年3月24日に日本発のプレプリントサーバ「Jxiv」の運用を開始した。

●Jxivの取り組み,今後の予定

  Jxivは,以下をはじめとした方針で運営している。

  1. 投稿は研究者に限定し,researchmapまたはORCID(CA1880参照)の登録を必要とすること
  2. 投稿原稿は最低限のスクリーニングを経て公開となること
  3. 公開に際してDOIを付与すること
  4. プレプリントに付随したデータも公開ができること
  5. 版管理が可能で,査読前原稿であれば改訂を認めること
  6. 誰でも閲覧できること
  7. 閲覧・投稿画面は日本語・英語のインタフェースを切り替えられること
  8. ジャーナルで採択された出版版論文へのリンクを表示できること
  9. 二次利用についてクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CA1973参照)を全プレプリントに表示すること

  Jxivは2022年9月12日時点,生物学・生命科学・基礎医学,地球科学・天文学,経済学・経営学を中心に投稿があるが,公開数は総数73(日本語投稿数31)に留まる。投稿数がまだ少ない理由には様々な原因が推測されるが,一つには,プレプリントとして公開した論文をジャーナルに投稿する際,投稿先がそれを受け付けるかについて,まだ多くの国内誌では議論が進んでいないことも要因と考え得る。プレプリントの受付可否は各誌の投稿規程に明記される必要があるので,JSTは適時J-STAGE発行機関等にJxivおよびプレプリントの説明会を実施し,プレプリントの取扱いの検討を促している。投稿者に対しては,Jxivのウェブサイト上でプレプリントの投稿を可とするジャーナルを紹介し,情報の提示に努めている。今後は,プレプリントサーバの機能強化およびプレプリントを利用するための環境整備を引き続き進める予定であり,幅広い分野からの投稿を期待する。

Ref:
Jxiv.
https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv
“補遺(2020年10月26日追加)”. COVID-19 / SARS-CoV-2 関連のプレプリントを用いた研究動向の試行的分析. 科学技術・学術政策研究所, 2020.
https://doi.org/10.15108/dp186
第6期科学技術・イノベーション基本計画. 2021, 84p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf
JSTのプレプリントサーバー「Jxiv(ジェイカイブ)」の運用開始~日本で初めての本格的なプレプリントサーバー~. JST, 2022, 2p.
https://www.jst.go.jp/pr/info/info1551/pdf/info1551.pdf
JST プレプリントサーバ「Jxiv」投稿規約.
https://jxiv.jst.go.jp/jxiv_docs/ja/Jxiv_submission_terms_ja.pdf
“Jxiv許容誌、協力誌リスト”. Jxiv. 2022-07-04.
https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv/announcement/view/1
“筑波大学とF1000 Research社、オープンサイエンス先導に向けた契約を締結 ~日本語にも対応した世界初のオープンリサーチ出版~”. 筑波大学. 2020-05-28.
https://www.tsukuba.ac.jp/news/20200528043628.html
池田潤,森本行人. 研究成果公開の新たな国際標準に向けた筑波大学の取組. カレントアウェアネス-E. 2020, (396), E2288.
https://current.ndl.go.jp/e2288
宮入暢子. ORCIDのコミュニティ展開―日本での実装に向けて―. カレントアウェアネス. 2016, (329), CA1880, p. 2-4.
https://doi.org/10.11501/10196261
数藤雅彦. Rights Statementsと日本における権利表記の動向. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1973, p. 19-23.
https://doi.org/10.11501/11471491