カレントアウェアネス-E
No.405 2020.12.24
E2339
韓国図書館界,ポストコロナの図書館を考えるフォーラム開催
利用者サービス部政治史料課・藤原夏人(ふじわらなつと)
2020年9月4日,韓国において,大統領所属図書館情報政策委員会(以下「図書館委員会」),韓国図書館協会(KLA),韓国国立中央図書館(NLK)の共催により,ポストコロナ時代の図書館の在り方について検討するため,「ポストコロナ,新しい日常と図書館の挑戦」と題する政策フォーラムがオンラインで開催された。
同フォーラムは,基調講演,主題発表,パネルディスカッションの順に進められ,多様な立場・観点から議論が交わされた。本稿では,フォーラムで行われた報告や議論の主な内容について紹介する。
●基調講演「グローカル・デジタル時代‘生きている’知識プラットフォームとしての図書館」
延世大学名誉教授で文化人類学者のチョハン・ヘジョン氏が,現代の知識情報社会では,既存の「教科書的知識」を習得することで「正解」が得られたかつての時代とは異なり,市民が自ら問いを発し,検索し,相互の自発的なつながりの中で知識を新たに生成すること(集団的知性)が必要であると指摘した。よって,地域コミュニティ活動の拠点,集団的知性を生み出す場,「第三の場」としての図書館と,アーキビスト・キュレーター・ファシリテーターとしての司書の役割が重要になると述べた。
●主題発表「現在となった未来,図書館は何に悩まなければならないか?」
NLK館長のソ・ヘラン氏が,コロナ禍において利用制限を行っている韓国の多くの図書館が非対面サービスを強化する努力を行っているものの,著作権の問題,コンテンツ不足などにより困難を抱えている実情を説明した。
また,ソ館長は,ポストコロナ時代のあるべき「ニューノーマル」な図書館像として,「オンライン・非対面技術を活用し,豊富なデジタルコンテンツを自由に共有する安全な図書館」を提示した。今後取り組むべき課題として,1. デジタルコンテンツの確保(NLKにおけるオンライン資料の納本率の向上(E1836参照)や所蔵資料のデジタル化の推進等),2. 著作権法の改正(非常時に調査研究・教育目的の自由な利用を可能とする),3. 最新技術の採用による司書業務の革新とオンライン・非対面サービスの強化,4. 予算削減への対応を挙げた。特に司書に関しては,既存の貸出中心のサービスから脱却し,独創的なサービスを生み出せる存在となるよう自己改革することの重要性を強調した。
●パネルディスカッション
ディスカッションに先立ち,館種別のパネリスト4人が,コロナ禍への対応状況や課題等について報告を行った。城北文化財団図書館事業部のイ・ジンウ部長は,公共図書館も個別に努力をしているが,既存の秩序に縛られたままでは限界がある。そこで,当該地域における資料の収集・保存や,図書館支援・協力事業の中心となっている広域自治体の代表的な図書館が図書館政策に関与できるよう,地方自治法を改正して分権化を進めるとともに,非常時のオンラインサービス拡大のための著作権法改正を行うなど,制度を柔軟にする必要があるとの見解を述べた。
松谷女子高等学校の司書教諭のイ・ドクチュ氏は,平時でも学校図書館の半数以上は専任の担当者がおらず,コロナ禍により運営自体が困難になったことや,学校再開後も教育庁から図書館再開に向けての適切な指針が示されず,原則閉館を続けるよう要請されたことに言及した。そして,これまでの教育政策,図書館政策から疎外されてきた学校図書館について,国レベルでの政策が講じられるよう,図書館委員会が役割を果たすべきであると述べた。
西江大学ロヨラ図書館のチョン・ジェヨン部長は,商業施設と類似した快適な空間を追求していた近年の大学図書館の傾向に触れながら,コロナ禍が,そのような大学図書館の存在意義やアイデンティティーの脆弱性が露呈するきっかけになったことを指摘した。大学図書館の喫緊の課題は,自ら危機的状況を認識し,大学図書館ならではの新しいサービスと役割を追求するとともに,時代の変化をいち早く利用者に知らせ,先導していく積極的な役割を果たすことであり,そのための公的な議論の場や,法律や制度面での支援が必要であると述べた。
韓国医学図書館協会理事である高麗大学医学図書館のイ・ウンジュ課長は,コロナ禍においても医学図書館は8割以上が閉館せずにサービスを提供し続け,平時から資料購入費の9割以上を電子ジャーナル等の購入に充てていたため,資料の利用やサービスに支障はなかったと述べた。そして,不確実な時代であるほど図書館は基本に忠実でなければならず,図書館が社会をリードする中心的な役割を果たすためには,司書の役割が重要との認識を示した。
続くKLA会長ナム・ヨンジュン氏が司会を務めたディスカッションでは,ソ館長を含むパネリストから図書館委員会のリーダーシップを求める声が上がった。ソ館長は,2007年に設置された図書館委員会が,その設立意図からして,全ての館種・所管官庁を包摂する図書館政策の司令塔の役割を果たすべきだが,現実はそうなっていないと指摘した。また,チョン部長は,図書館委員会は大学図書館に対する関心が相対的に低いのではないかと述べ,図書館委員会のシン・ギナム委員長の見解を求めた。
これに対しシン委員長は,チョン部長の質問をこの場の全員からの質問と受け止めた上で,これまでは政府から十分な支援が得られず,期待に応えることができなかったと述べた。続けて,2018年から組織の立て直しを進めており,2021年から本格的に,ポストコロナの図書館界に必要な政策,法整備を行っていくので期待してほしいと語った。
同フォーラムでは,ポストコロナ時代の図書館の課題として,多くのパネリストから,法整備等の外的な条件の整備と並んで司書業務の革新が挙げられた。図書館と利用者がより強固につながるための新しいオンラインサービスを生み出していく司書の役割に対する関心の高さをうかがわせるものとなった。
Ref:
“도서관정보정책위원회 2020년도 도서관정책포럼 개최 안내”. 대통령 소속도서관정보정책위원회. 2020-08-21.
http://www.clip.go.kr/cop/bbs/selectBoardArticle.do?bbsId=Notice_main&nttId=6985&menuNo=030000&subMenuNo=030100
National Library of Korea. “제7기 도서관정보정책위원회 2020 도서관정책포럼”. YouTube.
https://www.youtube.com/watch?v=0jgUahHVYLM
藤原夏人. オンライン資料の納本制度の現在(4)韓国. 2016, (310), E1836.
https://current.ndl.go.jp/e1836