E2273 - 教育機関としての英国図書館:児童書のオンライン展示から

カレントアウェアネス-E

No.393 2020.06.25

 

 E2273

教育機関としての英国図書館:児童書のオンライン展示から

収集書誌部外国資料課・辻慎太郎(つじしんたろう)

 

   2020年2月21日,英国図書館(BL)は “Discovering Children's Books”と題したオンライン展示を公開した。BLは2014年公開のロマン派,ヴィクトリア朝時代の資料を中心とした“Discovering Literature: Romantics & Victorians”をはじめ,デジタル化した資料とその解説などからなるウェブページを以前から提供している。今回は小学生,教師,生涯学習者を対象とした,児童書がテーマの展示である。

   当該ウェブサイトではテーマ別,また映像,文章などの形態別にコンテンツを検索,利用できる。まずデジタル化された資料については,BLだけでなく英・ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館など複数のコレクションから150点以上が閲覧可能である。約2000年前のエジプトでギリシャ語の宿題帳として使われていたろう板には,手本を写し間違えた生徒の筆跡が残っており,微笑ましいと同時に当時の学習の様子が生き生きと伝わってくる。この他にも18世紀から19世紀ごろのホーンブックという文字学習用の道具,1970年代の米・マーベル・コミック社の漫画雑誌など,ウェブサイトで閲覧できる資料の年代や地域,分野は幅広く,子どもと本の関わりの歴史が一望できる。

   こうした貴重資料を含む各機関のコレクションだけでなく,ウェブサイトではオリジナルのコンテンツも豊富に用意されている。映像コーナーでは朗読などに加え,イラストレーターのシェフラー(Axel Scheffler)氏が絵本のキャラクター「グラファロ」を描く様子など,作家の制作過程をのぞくことができる。画材や紙の角度を変えつつ,作家たちが絵やキャラクターの設定を仕上げていく様子には,映像ならではの面白みがある。

   読み物では,旅や家,家族など,児童書に頻出するテーマを扱った記事が掲載されている。そのうちの1つ“Go deeper: Food in children’s books”は,ダール(Roald Dahl)氏の『チャーリーとチョコレート工場』などの作品に登場するお菓子や料理についてまとめている。美味しく魅力的なものばかりでなく,変わった材料でできたもの,特殊な力を秘めたものなど様々な食べ物が登場し,読めば思わず引用元の作品を探したくなる内容である。

   このほか,ワークショップ形式の記事もある。“Create a talking animal”は「あなたの動物は服を着ていますか?」「人間のように話しますか?」などの問いを投げかけ,読者に自分でキャラクターを考えるよう促す。なお,ここで作った作品はBLの教育部門にメールで投稿することができるほか,同部門のTwitterアカウントも#MakeaBookと#letsgetdigitalのタグをつけてシェアすることを呼びかけている。ただ何かを作ってみるよう提案するだけでなく,発表の場まで準備することは,子どもたちの意欲を高めることにもつながるだろう。また,“Make a miniature book”では『ジェーン・エア』で知られるシャーロット・ブロンテ(Charlotte Brontë)らが幼少期に制作したミニチュアの本や,A4用紙一枚を使った本の作り方などが紹介されている。身の回りにある材料で冊子を作り,思い思いの絵や物語を書き込むうちに,創作という行為や本というメディアがおのずと身近に感じられるようになるのではないだろうか。

   現在,文学作品の手稿や挿絵の原画などをオンライン公開する取り組みは世界各地で進められており,決して珍しいものではなくなってきている。米国や欧州では,そうした資料を単にデジタル化するだけでなく,教育に活用していこうとする動きが活発である(CA1943参照)。今回公開されたBLのウェブサイトは子どもを含む閲覧者が自身に適したデジタルコンテンツを探し,自学自習することを可能にする,学習支援において重要な仕組み(E2201参照)を備えたものであるといえる。

   折しも2020年は新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し,ブックトークの配信,館外から利用可能なデータベースの拡大など,図書館による非来館型のコンテンツを提供する動きに拍車がかかった。こうした取り組みを非常時だけのものにせず,今後は平常時においても事業の一環として重視し,拡充を図る必要があるだろう。“Discovering Children's Books”は,単に公開された資料の内容だけでなく,それらを提供する形式においても優れた展示であり,これからの図書館サービスを考える上で重要なヒントを秘めていると言える。

Ref:
“Discovering Children's Books”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books
“Discovering Literature: Romantics & Victorians”. British Library.
https://www.bl.uk/romantics-and-victorians
“The British Library brings together 100 treasures from children’s literature for the first time, in a new free-to-access website”. British Library.
https://www.bl.uk/press-releases/2020/february/dcb
“About the project”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/about-the-project
“Collection items”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/collection-items
“Videos”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/videos
“Articles and interviews”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/articles
“Go deeper: Food in children’s books”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/articles/food-in-childrens-books
“Create a talking animal”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/activities/write-an-animal-tale
@BL_Learning. Twitter. 2020-03-26.
https://twitter.com/BL_Learning/status/1243158227799416832
“Make a miniature book”. British Library.
https://www.bl.uk/childrens-books/activities/make-a-miniature-book
林嘉信. 読書・学習支援コンテンツの構築及び利活用に関する調査研究. カレントアウェアネス-E. 2019, (380), E2201.
https://current.ndl.go.jp/e2201
古賀崇. 動向レビュー:デジタルアーカイブコンテンツの児童・生徒向け教育への活用をめぐって:米国・欧州の動向を中心に. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1943. p. 16-18.
https://doi.org/10.11501/11203359