カレントアウェアネス-E
No.382 2019.12.19
E2209
石巻市図書館の移動図書館車「ひより号」の運行終了について
石巻市図書館・阿部美子(あべよしこ)
石巻市図書館では,2011年10月から2019年8月までの約8年間,東日本大震災で被災された住民のための仮設住宅団地(以下「団地」)に移動図書館車を運行した。全国の皆様から多大なご支援をいただいたことにつき,この場を借りて御礼を申し上げるとともに,ひと区切りをつけた移動図書館業務について報告したい。
石巻市は,宮城県北東部に位置し,面積約555平方キロメートル,人口約14万人の,太平洋に面した都市である。江戸時代には,北上川の舟運による米の集積港として栄え,明治からは,金華山沖漁場を背景に漁業のまちとして発展してきた。2005年には,河北,雄勝,河南,北上,桃生,牡鹿の6町と合併して,新・石巻市となった。
石巻市図書館はその前身が1881年の創立で,蔵書数約19万冊,年間貸出冊数約26万冊(ともに2018年度末)の図書館である。この館を本館として,2005年の合併以前は各町の公民館図書室であったところが図書館分館となり,本館1館,分館6館の体制で,市内全域への均等なサービスを目指して取り組んできた。ところが,2011年3月,東日本大震災が発生し,市内の犠牲は死者3,277人,行方不明者420人に上った。多くの建物も地震と津波で破壊され,図書館の北上分館と雄勝分館も津波により全壊となった。本館は高台にあったため津波を免れ,地震による被害も少なかったため,急遽避難所となり,約半年の間,被災された住民の生活の場となった。
このような中,思いがけなく全国から多数の本を寄贈してもらった。それは当館の年間購入冊数を大きく上回るものであった。このことにより,団地の集会所へいち早く配本することができたし,移動図書館車「ひより号」によるサービスを開始することができた。ひより号には約3,000冊を積載し,市内約50か所を,2週間に1度ずつ巡回し,図書の貸出を行った。市内には,134もの団地が設置されたので,ひより号が巡回したのはその一部に過ぎなかったが,これが当館でできる精一杯であった。
ひより号では被災者の心のケアも目指していたので,積極的に挨拶をするよう努め,利用者からも気安く声を掛けてもらった。何気ない会話や行為から垣間見えるものもあった。例えば,ある団地では,漁の忙しい季節になると利用を休み,忙しさが過ぎるとまた戻って来てくれた人たちの,晴耕雨読の暮らし。また別の団地では,いつも外のベンチで,ひより号の到着を待っていてくれた人たちの実直さ。そして,悲しい失敗談は,ある高齢者から予約を受け付けた時のこと。「この本は人気で予約が重なっているから,お待たせしますよ,次の次の次くらいになると思います」と説明したところ,「いいよ。行く所,無いんだから,次の次の次でも」と言って涙ぐんでしまわれた。団地を卒業していく住民がいる一方で,残される側の感じている焦りや寂しさに初めて気付かされた。
この約8年間でひより号は10万キロメートルを走り,延べ約2万人の住民に,約10万冊を利用してもらうことができた。復興住宅団地への運行の要望も多くあったが,ひより号の運行は,開始時の計画どおり団地の供与終了に合わせて,終了となった。図書館が近くに来てくれれば利用したいと思っている人たちがたくさんいることを,今回のひより号運行により実感した担当者としては,継続できなかったのは大変残念であった。
その後当館では,「出張図書館」の名称で,公民館に場所を借りて図書の貸出を開始した。現在はまだ1か所だが2020年3月には2か所目を開始する。また,被災して休館を続けていた北上分館と雄勝分館も,2020年度中に新館オープンする予定である。車両としてのひより号はこの新館準備として,本館から分館に図書を搬送するために,もうひと働きする。
Ref:
https://www.facebook.com/ishinomaki.library/photos/a.230464637699513/521332098612764/
http://www.is-lib.jp/watanoha.pdf