E2210 – ABDという新たな読書法:本は人を結ぶ縁結びの神様

カレントアウェアネス-E

No.382 2019.12.19

 

 E2210

ABDという新たな読書法:本は人を結ぶ縁結びの神様

島根大学図書館コンシェルジュ・田中絵梨(たなかえり)
島根大学附属図書館・昌子喜信(しょうじよしのぶ),三村のぞみ(みむらのぞみ)

 

●はじめに

 島根大学図書館コンシェルジュ(以下「コンシェルジュ」)は,その活動の一つとしてアクティブ・ブック・ダイアログ(ABD)というイベントを2018年度から継続的に行っている。本稿では,ABDを実施するようになった背景,筆者(田中)が島根大学附属図書館(以下「図書館」;島根県松江市)ラーニングコモンズにて2019年10月5日に実施したABD「10年後の仕事図鑑」について報告する。

●コンシェルジュとは

 学生目線で図書館をより良くするために活動を行う学生団体である。カウンターでの利用者サポート活動と,「展示・グッズチーム」,「広報チーム」,「イベントチーム」という3つのチームで行う「自主企画活動」の主に2つの活動を中心に,2019年度は26人の島根大学生が活動している。

●ABDとは

 ABDとは,一種の読書会であるが,事前に本を読まない点が特徴である。開催当日は,全参加者で1冊の本を分担して読んで要約し,他の参加者に対して発表し共有する。そして,全参加者が本の内容を理解した上で,4人から5人のグループに分かれて,内容について対話(ダイアログ)を行うことがポイントである。短時間で1冊の本の内容を理解できると同時に,対話を通じた能動的な気付きや学び,参加者同士の新たな関係性の構築にも主眼を置いた,近未来型の読書法と言える。

●実施背景

 このABDに取り組むきっかけは,2018年度の島根大学の「学生の自主的活動プロジェクト(プロジェクトS)」にコンシェルジュとしての筆者(田中)の先輩が応募し採択されたことである。このプロジェクトSは,学生が企画した自主的活動に対して大学が経費の支援を行うもので,「地域との交流」がキーワードだった。「大学生と地域の人を繋ぐ媒体としてコンシェルジュには何が使えるか?」と考えたら本と図書館であったため,本で人の繋がりを作ろうと思い,アクティブ・ブック・ダイアローグ協会が考案した新たな読書法ABDに出会ったとのことである。

 プロジェクトSに採用された企画は単発企画であり,なぜ筆者がABDを現在も行っているのか。その理由は「若者の本離れ」,「同時に多数のスキルが身につく」,「参加していて楽しい」の3つである。

 近年若者の本離れが深刻となっており,島根大学生にも本離れの学生が多いようである。「読書の時間が取れない」,「1冊の本を全て読むことに抵抗感がある」が理由ではないだろうか。

 ABDは対話を行うが,その際に,傾聴力や,分かりやすく伝える力といった社会人となってからも役立つ力を養うことができる。また,ABDは読んだ内容を要約し,発表も行うので,要約力やプレゼン力も身につく。

 さらに,ABDという読書法は,対話を行うことで,1人のときにはなかった気付きや,新たな学びを得られる。実際,筆者(田中)も2018年度のプロジェクトSの際には参加者として臨んだのだが,1人での読書とはまた違った気付きや学びを得られて楽しく,充実した時間だった。

 このABDという読書法により,たった1冊の本がきっかけとなり読書に興味を持ってもらうことができ,近年の若者の本離れの解決に寄与でき,また,参加者が楽しみながらスキルアップができると考え,実施している。

●実施内容

 今回,堀江貴文,落合陽一著『10年後の仕事図鑑』を用いてABDを行った。手法として,アクティブ・ブック・ダイアローグ協会の公式ウェブサイトにある誰でも無料でダウンロードできるマニュアルを使用した。

 まず,オープニングとして,その場の雰囲気を和やかにするために,自己紹介,他の参加者から呼ばれたいニックネーム,今の気持ちを順番に述べる「チェックイン」を行い,その後ルール説明を行った。

 ABDのメインとなる活動は,参加者が担当部分を約1時間で読んで要約し,B5用紙6枚程度にまとめる「コ・サマライズ」,参加者が順番に担当部分の要約を発表する「リレープレゼン」,発表後に要約された紙を壁に貼り付け,それを吟味しながら歩き回る「ギャラリーウォーク」,参加者をグループに分けて本の内容について対話し,理解を深めるための「ダイアログ」,という順番で行った。以前開催したABDで,「もっといろいろな人とダイアログをしたい」という意見があったため,今回ダイアログを3回行い,1回目と2回目でグループを入れ替え違う人と話し合えるようにするなど,参加者がよりABDを楽しめる,マニュアルには無い独自の工夫をした。

 メインとなる活動後に,「チェックアウト」として,参加者全員が一言ずつ参加した感想を述べた。

●結果と今後の展望

 広報手段として,図書館や学内へのポスターの掲示,図書館ウェブサイトへの掲載,コンシェルジュのSNSを活用した。しかし,参加者は計8人と多くなかった。

 それでも参加者から,「普段社会人や他大学の学生と話す機会は無いので,良い機会となった」,「今後もABDを開催してほしい」など好意的な意見が多かった。

 ここ島根県には縁結びの神様で有名な出雲大社がある。今回のABDを通じて出会った参加者は『10年後の仕事図鑑』という本で結ばれた縁である。今後もABDという読書法を通じて,他大学や地域住民と本を通じてご縁を結んでいき,また島根県から日本全国にABDを発信していきたい。

Ref:
https://www.lib.shimane-u.ac.jp/new/2019082700034/
https://twitter.com/shimat_con/status/1180437848765288448
http://www.abd-abd.com/
https://www.lib.shimane-u.ac.jp/_files/00305976/nenpo2018.pdf
https://www.facebook.com/shimadailibsapo/