E2159 – ジャーナルプラットフォームの連合体“GLOALL”の結成

カレントアウェアネス-E

No.373 2019.07.25

 

 E2159

ジャーナルプラットフォームの連合体“GLOALL”の結成

科学技術振興機構・小賀坂康志(おがさかやすし)

 

 ユネスコが提唱する“Inclusive Knowledge Societies”という概念がある。全ての人々は,各々に合った言語や形式により,情報やコミュニケーション手段にアクセスすることが可能で,またそれらを解釈し活用するためのスキルを備えている,という状態を指し,ユネスコはそのような社会の実現を目指さなければならないとしている。科学技術・学術情報の流通も,この概念で言うところの「情報」及び「コミュニケーション手段」に含まれると考えられるが,現在の学術ジャーナルを巡る情勢は,いわゆるオープンアクセス(OA)に関する議論を踏まえても,理想的な状態からは程遠いと言わざるを得ない。特に2018年に欧州の助成機関が発表した,公的助成による研究の成果論文の即時OAを義務化する計画である“Plan S”と,それに関して世界的に展開された激しい議論は,立場による見解の相違はあるものの,科学技術・学術情報流通が多くの問題を抱えた状態にあることの明確な証左として共通認識されたのではないだろうか。

 2019年4月8日から12日までスイス・ジュネーブにおいて世界情報社会サミット(WSIS)フォーラム2019が開催され,150以上の国から3,000人を超える参加者が出席した。本フォーラムにおいて,ユネスコの企画により“Access to Scientific Information”というセッションが開催され,科学技術振興機構(JST)が運営する日本の科学技術情報の電子ジャーナル出版プラットフォームであるJ-STAGEの担当者(筆者)は,ユネスコの招へいにより出席した。本セッション開催の背景にある問題として,商業出版社による学術論文出版の寡占と,これを一因とした学術論文流通の世界的な格差(国の経済力の違いによる論文へのアクセス性の格差等)が挙げられる。加えて,英語中心のコミュニケーション手段や,ジャーナルインパクトファクター(JIF)のような商業ベースの画一的な指標が台頭したために,これらに適合しないジャーナルや論文が過小評価されているという問題もある。これらの問題に対する関係者間での議論やユネスコによる解決に向けた取組を通じて,商業出版社によらない各国ジャーナルプラットフォームの連合体の構想(Global Alliance of Open Access Scholarly Communication Platforms:GLOALL)が提案され,WSISフォーラム2019のセッションとして,ユネスコ主催のもとに議論の場が設けられたのである。

 セッションでは,初めにユネスコからGLOALLおよび本セッションの趣旨が説明された後,招へいされた各プラットフォーム-AmeliCA(南米),OpenEdition(フランス),AJOL(アフリカ),Érudit(カナダ),J-STAGE(日本),SciELO(ブラジル)の担当者がそれぞれの取組状況および連合体への貢献の可能性について講演した。J-STAGE担当者からは特に,日本の大学や資金配分機関におけるOAに対するポリシーの整備状況や日本のジャーナルが有する今後の課題等について発表を行った。その後のパネルディスカッションでは,連合体の基本的な理念・体制,財政的な持続性,提供価値等について議論が行われ,多様な文化・テーマ・言語によるアプローチのもと,科学的知識の民主化のために協力することに合意した。これを受けて発足したGLOALLでは,科学的および学術的知識が国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に不可欠な世界的公共財であるという原則を共有し,多言語学術コミュニケーションに関わる規範,製品およびサービスの開発を促進し,世界の研究への関与を深めるための相互運用性の強化を図る予定である。

 GLOALLメンバーは現在,連合体運営の枠組や,具体的な技術開発課題について議論を行っている。GLOALLの結成を受け,日本においても,国内ジャーナルのオープン性や,和文論文の国際的なアクセス性等への関心が高まり,それらの取組に変革が起こることが期待される。J-STAGEは,GLOALL等の国際的なイニシアティブを通じ,OAに関わる国際動向への対応も含め,日本の科学技術・学術情報の流通促進と国際発信力の強化に貢献していく。具体的には,主にJ-STAGE利用機関を対象とした情報提供や事例共有の場である「J-STAGEセミナー」や,登載ジャーナルを支援対象とした「ジャーナルコンサルティング」等の取組を通じて,国内ジャーナルのOA推進に向けた支援を強化していく。また科学技術・学術情報を発信するプラットフォームとして,論文の全文データのXML化促進等の取組によって,国内の科学技術・学術情報流通基盤を強化していきたいと考えている。

Ref:
https://en.unesco.org/news/launch-global-alliance-open-access-scholarly-communication-platforms-democratize-knowledge
https://www.itu.int/net4/wsis/forum/2019/