E1977 – ORCIDによる情報発信強化に関するシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.338 2017.12.07

 

 E1977

ORCIDによる情報発信強化に関するシンポジウム<報告>

 

 2017年9月8日,日本教育会館(東京都千代田区)にて「ORCID 我が国の学術情報、研究者 – 情報発信強化を目指して」と題して,特定非営利活動法人UniBio Press主催による公開シンポジウムが行われた。UniBio Pressは国立情報学研究所(NII)の支援のもと国際的な出版活動を行う法人で,シンポジウムには,同じくNIIが支援するオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)のメンバー機関の職員のほか,各学会,大学,研究機関の職員などおよそ50人が参加した。シンポジウムでは,宮入暢子氏(ORCID Inc.),谷藤幹子氏(国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)),安達淳氏(NII)によるそれぞれの講演とパネルディスカッションが行われた。

 宮入氏の講演では,ORCID(CA1880参照)の概要とORCIDが行った研究者へのアンケート結果の話題が中心となった。ORCIDの現状として,そのメンバー機関数は,日本では10機関,コンソーシアム会員は全世界で18機関であり,学協会のみからなるコンソーシアム会員は現在は存在しない。したがって,日本での学協会コンソーシアム参画が実現すれば世界初となる。ORCIDのサービスの話題では,APIの利用方法に触れ,非会員では一部機能が制限されるなどの説明があった。ORCIDに関する研究者アンケートの話題では,調査は無記名のオンラインアンケートとして実施され,回答者は369人で,半数がORCID登録者であると報告があった。ORCID iDの取得理由としては,論文投稿時に求められため,興味があったためという回答が多かった。ORCIDの主な機能である,メンバー機関による代理入力やCrossrefによる新規論文の自動登録などは認知度が低く,回答者の半数以上が認知していなかった。日本の学協会がORCIDを積極的に導入することに賛成する回答者は7割を超え,その理由として情報の一元管理や処理の透明化が挙げられた。一方で,同じ理由により反対する意見があった。質疑では,今後ORCIDが商業主義に向かう懸念などが示されたが,宮入氏からは商業的買収が禁止されている旨の説明があった。

 谷藤氏の講演では,NIMSにおけるORCIDを利用したサービスの構築に関して解説が行われた。NIMSは,研究者総覧「SAMURAI」を提供している。当該サービスは2017年10月にメジャーアップデートされ,外部サービスとのリンク機能およびデータの入出力機能の強化が行われた。特に2017年7月に追加されたORCID連携機能は国内の大学・研究機関の研究者データベースにおける初めての例となる。NIMSでは,研究職員の9割以上がORCIDを取得しており,今後もORCID連携サービスを強化する旨が語られた。谷藤氏はデータ駆動型サイエンスの流れにも言及した。データビジネスもこの流れに呼応しているとして,大手出版社がマイニング用データの提供サービスを実施していることや,データ解析サービスを専門とする企業があることなどを例として示した。

 安達氏の講演は,NIIのSPARC Japan(国際学術情報流通基盤整備事業)の紹介で始まった。講演はオープンデータやオープンサイエンスの背景の解説におよび,中国の論文生産性が上がるに従い,科学的プレゼンスが従来の米国中心から中国が有利な状況に変化したこと,学術コミュニケーションやデータ流通の様相が変化していることなどに触れた。また,学術情報流通において,研究者IDだけでなく様々なデータに対するID付与とその管理の仕組みが重要となることが強調された。とくに研究者とステークホルダーとの距離が近くなるにつれ,ステークホルダーによる研究成果の管理は重要性を増すと指摘し,このための円滑な学術情報流通においてIDの整理が重要な課題となると述べた。また,安達氏は,学協会コンソーシアムとしてORCIDへ参加するための基盤整備を目的として日本学術振興会研究成果公開促進費への申請を行う旨を明らかにした。

 最後に会場との質疑応答を含むパネルディスカッションが行われた。最初に村山泰啓氏(国立研究開発法人情報通信研究機構)によるプレゼンテーション「学術情報における識別子ORCIDと地球惑星科学連合」が行われ,続いてパネリスト(村山氏,宮入氏,谷藤氏,安達氏)によるディスカッションが行われた。質疑応答では,5年間の研究成果公開促進費交付期間が終了した後のコンソーシアムの継続についてや,個人情報の取り扱いについて懸念する声があった。

 シンポジウム全体としては,困難な部分を認めつつも効率的な出版やORCIDの新しいサービスの展開の可能性が語られた場であった。

国立研究開発法人物質・材料研究機構・天野晃

Ref:
http://www.unibiopress.org/event/2017/0908.html
http://www.nims.go.jp/news/archive/2017/07/201707100.html
CA1880