カレントアウェアネス-E
No.336 2017.11.02
E1968
図書館総合展2017フォーラムin安城<報告>
2017年では4か所目の図書館総合展「地域フォーラム」(E1940参照)が9月23日,愛知県の安城市中心市街地拠点施設「アンフォーレ」で開催された。アンフォーレは2017年6月にオープンし,その中心施設がアンフォーレ本館の2階から4階に位置する安城市図書情報館(以下,図書情報館)である。フォーラムでは,作家の荒俣宏氏の基調講演「つながる読書」,荒俣氏に神谷学安城市長とアンフォーレを設計した三上建築事務所の益子一彦所長を加えたパネル討論「まちづくりと図書館」などが行われた。主催者発表の参加者は267人であった。
当日の詳細は,公開されているツイート集や動画記録に委ね,ここでは,基調講演及びパネル討論での図書情報館に関する内容や意見等を中心にまとめ,それらを踏まえた図書情報館の今後の展望や可能性に言及する。
第1部の基調講演で,荒俣氏は,図書情報館の前身が安城町農会(当時)設立の「安城農業図書館」であることに触れ,農業先進地域であった当地に合ったスタイルであると指摘した。その後,荒俣氏は「つながる読書」を継承する場として,日本の近代に,北海道函館市の私立函館図書館や愛知県西尾市の岩瀬文庫など,全国各地に民間人の手で作られた私設図書館を例に挙げ,図書館の存在意義を強調した。
第3部のパネル討論は,青山学院大学の野末俊比古准教授の進行で行われ,初めに神谷市長と益子所長の発表があった。神谷市長は,アンフォーレの計画段階では本当に図書館が街づくりの核になるのかと疑問の声が多かったが,ICTを活用した図書と情報の拠点を作ることが,中心市街地の賑わい創出と活性化の起爆剤になると確信して図書館機能を集約した,と話した。益子所長は設計者の立場から,中心市街地の活性化のためのデザインや動線を念頭に計画したこと,建物には構造上の壁は存在せず,8畳間にあたる3.6メートル四方を基本構造に建物全体を作っていることを紹介した。
その後,次のような議論が交わされた。
- 荒俣 伝統的な日本十進分類法(NDC)を踏襲していないのは評価できる。図書館はある種,書物のオリである。それを突き破る排架方法として,旧来の開架式に戻っている。
- 野末 この図書館は生きている,これからも進化していく図書館と受け止めた。NDCを踏襲しない案はどこから出されたのか。
- 益子 これは図書館からである。図書館の人が色々と考えて,今までと違う図書館にしたいということだろうと感じた。
- 野末 人がうまく分散している印象を受ける。それが成功していると感じている。
来場者から次のような質問があった。「素晴らしい器ができ,次は人でしょうか。長期的な人材スキル・知識の継承を,どのようにお考えでしょうか。」 - 神谷 人については,新たにオープンするから急に1年で図書館司書を増やすという訳にはいかない。数年間で,徐々に司書を増やしてきた。指定管理では人が頻繁に変わる可能性があるので,地域の文化を育てるため,職員に任せることとした。
一番問題なのは作った後。特に図書館司書は,一石二鳥で,事務もでき,本も知っていて,という人を育てることはできない。身分も安定し,熱意も無いとやっていけない。特定のジャンルに強いという人も必要だが,どんな分野にも勘が働く,という人が必要。この街のことを良く知る「集団」を作る必要がある。
現在,平日で3,000人,土日は5,000人から6,000人,大きなイベントがあれば1万人の来館者がある。図書館だからこうだと決めつけず,この賑わいをどう地域産業に活かせるのか,という問いかけをしているところ。2,3年後に再度訪れた方に,そんなことをやっているのか,と言われる場所にしたい。
今回のフォーラムでの議論を踏まえて,当市での取組みの特徴と,現時点での成果及び今後の展望をまとめる。
●取組みの特徴
図書館運営は従来の「市直営」を維持しつつ,設計建設と15年間の維持管理をPFIで行うことで,現在価値換算で4億7,000万円削減できた。アンフォーレ全体のコンセプト「交流と賑わいの創出」に鑑み,図書情報館フロアでも,一部を除いて会話と飲食を原則可とする運用をしている。また,中高生向けのYAコーナーを発展させた当市独自の図書館初心者向けコーナー「らBooks」に象徴されるように,NDCに捉われないジャンル別の排架と棚づくりを行っている。
●現時点での成果と今後の展望
アンフォーレ本館の来館者数は,2017年9月末現在で1日平均約4,400人であり,旧中央図書館の約3倍である。オープンから2017年度末までの10か月間で100万人前後と推計している。図書情報館オープン以降の個人貸出実績を2016年と比較すると,貸出利用者数は46%増,貸出冊数は23%増となっており,このまま推移すれば初の年間200万冊突破も不可能ではない。
図書館業務システムの更新に合わせて,学校図書館システムとの連携及び市内29小中学校への週2回の定期配送を実施している。同時に,学校司書の全校専任配置も実現したため,子どもの読書環境を一層充実させることができた。この結果,2017年度1学期の学校等への団体貸出冊数は2016年度の2万6,000冊余から5万3,000冊余に倍増している。
また,自動貸出機や予約本受取機の導入などで貸出・返却業務の自動化・省力化を図り,図書館司書はレファレンスやフロア案内に専念する体制を構築したことで,レファレンス件数が2016年度実績の1日平均20件程度から40件程度へと,クイックレファレンスを中心に増加している。
2017年10月には3階にビジネス支援センター「安城ビジネスコンシェルジュ」(通称:ABC)を開設した。運営主体は当市商工課であるが,図書情報館内にある強みを生かし,ビジネス関連図書や外部データベースの活用,図書館司書との連携を行っていきたい。
今後は,パネル討論で神谷市長が発言した「目先の評価だけでなく,数年後に本当の評価が下される」ことを肝に銘じ,「成長する有機体」であり続けられるようサービス向上に努めたい。
安城市図書情報館・岡田知之
Ref:
https://www.libraryfair.jp/news/5642
https://www.library.city.anjo.aichi.jp/
https://www.libraryfair.jp/news/6359
E1940