E1967 – 関西大学アジア・オープン・リサーチセンターの目指すもの

カレントアウェアネス-E

No.336 2017.11.02

 

 E1967

関西大学アジア・オープン・リサーチセンターの目指すもの

 

    関西大学の東アジア研究は,江戸時代末期に大阪に開設された漢学塾「泊園書院」をその源とする東西学術研究所(1951年設立)を中心に,近年の文部科学省グローバルCOEプログラムへの採択や「文化交渉学」という新しい学問体系の提唱等を通じて,広く社会的な認知を受けていると自負している。今回,更に,そうした長き伝統の中で培われてきた関西大学の東アジア研究の学術リソースと国際的学術ネットワークを基盤に東アジア研究のためのデジタルアーカイブを構築し,その活用を通して新たな人文知の未来を切り拓くべく,2017年4月,「関西大学アジア・オープン・リサーチセンター」(Kansai University Open Research Center for Asian Studies:KU-ORCAS)を立ち上げた。

    人文学の分野では「デジタルアーカイブ」は今や世界の大きな潮流となっている。本学でも,KU-ORCASの前身であるアジア文化研究センターが,2012年に「CSAC Digital Archives」を公開しており,本学図書館が所蔵する個人文庫(内藤文庫,長澤文庫,泊園文庫,増田文庫等)に含まれる資料約15万点のうち約6,000点が電子化され,そのうち約2,000点(書籍に加え書画類も含む)がインターネット上で公開済である。

    これらデジタルアーカイブは,国や言語,規模の大小を問わず存在しているが,問題は,その構築が,横の連携や統一的な規格もなく各々独自に進められているところにある。俗に言われる「サイロ問題」であるが,これは極めて不経済であり,無駄が多いものとなっている。そこで,KU-ORCASでは「サイロ」から「コンテンツ」を「解き放つ」ことを目的としている。「研究リソース」「研究グループ」「研究ノウハウ」の3つのオープン化を掲げ,東アジア研究における世界的拠点としての「ハブ」の役割を果たそうとするものである。

    さて,KU-ORCASの目指す3つのオープン化は様々なステークホルダーへの関与を想定している。専門の研究者はもちろんであるが,加えて異分野の研究者,MLA(博物館・図書館・文書館),企業,政府,市民等との連携である。たとえば,市民との連携としては,インターネット上で仕事を細分化してボランティアに作業を依頼する「クラウドソーシング」を活用して,古文書を解読できる人たちにくずし字をテキスト化してもらったり,書誌データを作成してもらったりといった,「市民も参加できるアーカイブ」として育てていきたいと考えている。当面の具体的な活動としては近代の東西言語の文化接触や「泊園書院」に関する資料と近世大坂画壇コレクションを中心とした資料のデジタルアーカイブ化,古代飛鳥や難波津の発掘データや出土物データ,図面などのデータベース化を計画している。

   デジタル画像相互運用のための国際規格に関しては,昨今,IIIFが提唱されており,すでに国内でも京都大学附属図書館等がその規格に基づいてデジタル化公開を行っている。KU-ORCASでもこれまでのデータをまずはこの規格に準拠させる予定である。ところで,デジタル化やアーカイブズ化はそれ自体が最終目的ではない。私たちが考えなければならないのは,その先の利活用の問題であるが,それは研究者のみならず,更には,デジタルアーカイブを利用する可能性のある全ての人々を対象として考えるべきものだと思っている。

    最後に,KU-ORCASでは他機関,他研究者等との連携をはかることを謳っているが,その手始めとして,2017年9月,バチカン図書館との協定を締結した。バチカン図書館所蔵のアジア関係文献のデジタルアーカイブ化とそれに伴う研究活動を中国の北京外国語大学,イタリアのローマ大学と共に推進するというものである。デジタル化の作業そのものはバチカン図書館がIIIFに準拠して行うが,KU-ORCASでは,特にデジタル化する文献の選択や,書誌情報や解題の付与等といったメタデータの作成作業を実施してバチカン図書館に提供し,それを最終的にはバチカン図書館のウェブサイト上でデジタル化した資料とともに公開していく。

    バチカン図書館との間では,日本では,国文学研究資料館が2013年にマレガ収集文書の保存・公開に関する調査・研究に関して,株式会社NTTデータが2014年3月に所蔵資料のデジタル化に関して協定を結んでいるが,一大学としては日本で初めての試みだと思われる。ただ,日本語,中国語,朝鮮語はともかく,モンゴル語,チベット語,ベトナム語,満洲語などの資料も含んでおり,KU-ORCAS単独で実施するにはなかなか難しいところもあり,この点でも他機関とも連携協力を進める必要があると考えている。

関西大学アジア・オープン・リサーチセンター・内田慶市

Ref:
http://www.kansai-u.ac.jp/ku-orcas/
http://www.kansai-u.ac.jp/Tozaiken/index.html
http://www.icis.kansai-u.ac.jp/
http://www.csac.kansai-u.ac.jp/
http://www.db1.csac.kansai-u.ac.jp/csac/
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/events_news/department/library/news/2017/170907_1.html
http://www.kansai-u.ac.jp/mt/archives/2017/10/post_3026.html
https://www.nijl.ac.jp/pages/research/marega.html
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2014/032000.html