E1939 – 久留米市立図書館における「こころの相談カフェ」の取組み

カレントアウェアネス-E

No.330 2017.08.10

 

 E1939

久留米市立図書館における「こころの相談カフェ」の取組み

 

●はじめに

 久留米市(福岡県)では,2017年6月に,心の悩みや不安を抱えている市民の相談に臨床心理士等の資格を持ったカウンセラーが対応する「こころの相談カフェ」を市内の図書館に開設した。

 当市では2008年以降,「自殺対策基本法」及び政府の「自殺総合対策大綱」に基づき,自殺対策に取り組んでおり,2013年には,安全安心のまちづくりの取組みとして世界保健機関(WHO)による,セーフコミュニティの国際認証を取得し,重点取組み分野として,市全体で自殺対策を推進している。

 今回の開設は,自殺対策の一環として,2016年8月から実施している市内の百貨店での取組みを,自殺者の多い中高年男性の利用促進のために,図書館にも拡充したものである。本稿では,事業の概要や図書館での開設に至った経緯について報告する。

●「こころの相談カフェ」の概要

 警察庁の自殺統計によると,全国の自殺者数は,1998年以降,3万人を超えて推移してきたが,ここ数年は減少傾向である。当市でも,近年自殺者数は減少傾向であるが,人口動態統計によれば,2015年には依然として58人が亡くなっている状況である。

 自殺を予防するためには,自殺のリスクが高い人を早期に把握し,必要に応じて関係機関と連携し,切れ目のない支援を行うことが重要である。当市では,精神科医や保健師・精神保健福祉士が市民からの精神保健福祉相談に対応しており,その件数は年間約3,000件に上っている。しかし,悩みを抱えた当事者は,保健所等の公的機関や医療機関に相談することをためらい,相談にたどりついた時には,問題が深刻化しているケースも少なくない。そこで,悩みを抱え込む前に気軽に相談できるよう,より敷居の低い相談窓口が必要であると考え,市民に身近で誰もが出入りしやすく,臨床心理士等の専門のカウンセラーにリラックスして相談できる場所として,百貨店に「こころの相談カフェ」を開設することとなった。

 「こころの相談カフェ」は,NPO法人に委託して,週1回,平日午後,市内にある百貨店の10階飲食フロア一角のオープンスペースに開設している。アロマの香りやハーブティーを提供するなど,癒しを感じてもらえる雰囲気の相談窓口となっている。電話での予約を優先し,臨床心理士等のカウンセラーが市民の悩みや困りごとに対応している。百貨店で相談できるという手軽さや,臨床心理士等によるカウンセリングに主眼を置いた相談窓口が市民のニーズに合致し,好評を博している。さらに,商業施設での取組みという珍しさもあり,新聞に取り上げられるなど広く周知された。

 相談内容は,健康問題,家庭問題,経済・生活問題を中心に多岐に渡るが,百貨店という場所や開設時間等の関係もあってか,利用者は,40代から70代の女性が約8割を占めていた。一方で,当市では30代から50代の中高年男性の自殺者が多く,全体の35%を占めているが,その利用率は約17%にとどまっていた。

●図書館に開設した経緯

 男性利用者のアンケート結果によると,約6割が「平日夜間や土日の利用がしやすい」と回答しており,特に中高年男性からは,より相談しやすい場所や時間帯での開設希望があった。そこで,男性も利用しやすい相談窓口を増設することとなった。

 開設場所を「図書館」とした理由は二つある。一つ目は,図書館には男性1人で訪れやすい雰囲気があるとの男性市職員の意見があったことである。二つ目は,図書館は,自殺対策事業に対して理解があり,毎年3月の「自殺対策強化月間」には,心の健康に関するパネルやチラシ,関連図書を展示する「自殺対策パネル展示」を行ってきた実績があることから,今回,会場借用の承諾・協力が得られたことである。これらにより,月1回,平日夜間または日曜の午後に久留米市立中央図書館で「こころの相談カフェ」の取組みを行うこととなった。

●現在の取組み状況

 図書館の会議室に,植物を置いたり,コーヒーを準備したりするなど,百貨店の相談窓口と同様の雰囲気とし,案内チラシも男性が相談しているイメージのものにするなど工夫した。図書館には,相談窓口のポスターを掲示し,案内チラシを設置している。原則,予約を優先して相談に応じているが,予約に空きがあったり,当日予約のキャンセルが生じたりした場合は,直接来館しての受付や相談に対応する。開設から2か月が経過した現在,問い合わせも多く,3か月先まで予約が埋まっている。百貨店の相談窓口と比べると,男性の予約が先行しており,概ね,狙い通りの市民の反応を得られている状況である。

 本事業は開始して間もないため,今後,相談窓口の利用状況を窺い,事業の効果や課題を検証していく必要があると考えている。

久留米市保健所・山口はるか

Ref:
http://www.city.kurume.fukuoka.jp/1050kurashi/2060hokeneisei/3070seisinhoken/2017-0602-0945-207.html
https://www.city.kurume.fukuoka.jp/1080shisei/2058safe_commu/