カレントアウェアネス-E
No.319 2017.02.09
E1883
デジタル・ライブラリという定義の行方:ICADL2016<報告>
2016年12月7日から9日にかけて,第18回アジア・太平洋電子図書館国際会議(18th International Conference on Asia-Pacific Digital Libraries:ICADL2016)が筑波大学を会場として開かれた。18の国・地域から140人の参加があった。
「情報アクセスデザインとユーザ体験」「オープンアクセスとデータ」といったテーマ毎に分けられた10のセッションで,合計42本の論文が発表された。アジア・太平洋地域情報学大学院フォーラム(Asia-Pacific Forum of Information Schools:APIS)と合同で開催されたこともあってか,情報検索や情報抽出,モバイルアプリケーションの開発事例等,情報技術に関する発表が多い印象であった。
3本の基調講演も同様の傾向で,京都大学の田中克己教授によるビッグデータを利用して「20年前のiPod」で検索すると「ウォークマン」といった結果が出てくる,時間を超えた類推検索が行えるシステムの紹介,シンガポール経営大学のリム(Ee-peng Lim)教授によるスマートシティのためのアプリケーション(バスの運行情報・評判を共有できるもの,タクシーの相乗りを可能とするもの,写真から食事のカロリーを推算するものなど)の紹介等は,最新の情報技術とその利活用に関する話題であった。また,「図書館員という職業の劇的な変化」(“Seismic Shifts in Professional Librarianship”)と銘打たれたピッツバーグ大学のラーセン(Ronald L. Larsen)教授の基調講演は,ここ数年の米国の求人広告を分析し,図書館に関する求人の変化を示した内容であった。それによると,情報工学関係(例えばdatabase engineer)の求人が増加傾向にあるのに対して図書関係(例えばlibrarian)の求人が減少傾向にある一方,情報管理やデジタルキュレーションといった図書館に加えて情報工学も関わる分野の求人は増えている。すなわち,図書館情報学を学んだ人材への市場の要求が変化しつつあるという。そのために,information schools(iSchoolsとも呼ばれる,図書館学・情報学の大学の連合組織。会議時には全世界で80校)では図書館と情報技術,さらには著作権やプライバシーといった法律関係の知識についても学んだ,求人市場にマッチした人材の育成に取り組んでいるとのことであった。
他にはパネルディスカッションを中心とした「電子図書館研究とInformation Schoolsの未来」(“Future of DL Research and Information Schools”),「自然災害に対して/その中で私たちに何ができるか」(“What We Can Do in/for Natural Disasters”)と題された2つのテーマ・セッションが行われた。特に前者では,ラーセン教授の基調講演を受け,デジタル・ライブラリの領域としての今後のあり方等について会場も含めて活発な議論が繰り広げられた。後者では,日本やインドネシアでの地震や津波の被害状況の可視化等の研究が紹介されていた。
ちょうど10年前の2006年,同じく日本(京都大学)で開催された第9回のICADL(E587参照)では,Google Book Searchに関する基調講演や国立国会図書館のデジタルアーカイブに関する発表が行われており,本がデジタル化され,本文が検索できるということそれ自体が大きなインパクトを持って関係者に受け入れられていたことが推察される。それから10年,論文本数,参加者数共に減少した本会議からは,iSchoolsというムーブメントも含め,デジタル・ライブラリの今後について再考する時期に入ってきているということが感じられた。
次回のICADL2017はタイのバンコクで開催される。
電子情報部電子情報企画課・川島隆徳
Ref:
http://icadl2016.org/
http://link.springer.com/book/10.1007%2F978-3-319-49304-6
E587