E1869 – 研究データ共有によるイノベーションの創出<報告>

カレントアウェアネス-E

No.316 2016.12.08

 

 E1869

研究データ共有によるイノベーションの創出<報告>

 

   2016年10月3日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館で報告会「研究データ共有によるイノベーションの創出~第8回RDA総会等の国際議論を踏まえて~」を開催した。本報告会は,NDLが共同運営機関を務めるジャパンリンクセンター(JaLC)の研究データ利活用協議会第1回研究会という位置付けでもあった。報告会の趣旨は,9月15日から17日まで米国・デンバーで開催された研究データ同盟(Research Data Alliance:RDA)第8回総会等の参加者による報告を踏まえ,研究データに関する最新の国際情勢を共有することである。当日は研究者や図書館員等136名の参加があった。

   最初に,研究データ利活用協議会会長の国立情報学研究所(NII)・武田英明氏から,研究データ利活用協議会の概要,RDAの概要,次回総会の開催地(スペイン・バルセロナ),などについて報告が行われた。

   続いて,研究データ利活用協議会副会長の情報通信研究機構(NICT)・村山泰啓氏から,「オープンサイエンスを巡る世界の最新動向」というテーマで,RDAの資金拠出機関会合の中でRDAの今後の行方が議論されたこと,5月15日から17日にかけて開催されたG7茨城・つくば科学技術大臣会合の共同声明に,オープンサイエンスに関する作業部会を設置してRDA等と連携する方針が明記されたこと,などについて報告が行われた。

   次に,第8回RDA総会の参加者5名から,分科会等の内容について報告が行われた。

まず,NII・蔵川圭氏から,データ・サイテーションに関するRDAの提言と様々なプロジェクトへの適用状況,THORプロジェクト(E1850参照)等の永続的識別子(PID)をめぐる最近の状況,データの出所や修正の履歴等を共有するモデルの構築に向けた議論,などについて報告が行われた。

   NII・込山悠介氏からは,データ・ディスカバリーに関する望ましいモデルやメタデータ集約の事例,雑多・小規模・不規則といった特徴を持つロングテール・データの活用・支援方法に関する議論,などについて報告が行われた。また,RDAには,意思決定者である事業現場のリーダーや管理職の参加が必要であることが指摘された。

   科学技術振興機構(JST)・小賀坂康志氏からは,資金拠出機関会合等に関する報告が行われた。また,リポジトリの持続的運営に関して行政や機関トップを巻き込んだ議論になっていないこと,データ共有に関する技術論は出尽くしており,政策立案者や,専門領域の研究者で意思決定に関与できる層がRDAに参画する必要があること,などが指摘された。

   物質・材料研究機構(NIMS)・田辺浩介氏からは,データリポジトリの収入源に応じたビジネスモデルの長所・短所の比較,などについて報告が行われた。また,信頼性を担保するためには,論文やデータ,著者に対する電子証明書が必要になる可能性があることが指摘された。

   筆者からは,欧米ではデータキュレーションネットワーク等,国を越えた連携・協力が進んでいること,などについて報告を行った。あわせて,NDLのインターネット資料収集保存事業(WARP)によって収集・保存されている各大学・研究機関のウェブサイトに埋没している研究データを活用し,DOI付与の際にWARPのURLを使用すると永続的アクセスが保証されることを紹介した。

   続いて,NIIの山地一禎氏と船守美穂氏から,ポーランドのクラクフで9月28日から30日にかけて行われた「研究のためのデジタルインフラ2016」(Digital Infrastructures for Research 2016)の参加報告が行われた。具体的には,欧州における研究データ基盤(EUDAT,OpenAIRE等)の動向,欧州オープン・サイエンス・クラウド(European Open Science Cloud:EOSC)の構築に向けたメタデータ連携等の研究データ基盤の連携状況,などについて報告が行われた。

   文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏から,「RDA総会他から見える研究データ共有の現状と国の科学技術・学術政策への示唆」というテーマの下,各研究領域を繋ぐ取り組み,研究者を動かすインセンティブ,国際的な枠組み作りに対する日本の貢献とプレゼンス向上及び日本の政策への反映等が必要であることが指摘された。

   最後に,林氏を司会にフロアを交えたディスカッションが行われた。データ共有のためには研究者の意識改革が必要であること,データリポジトリに関する費用負担のあり方等のビジネスモデルの構築が必要であること,イノベーションを起こすうえでデータサイエンティストの役割が重要であること,図書館が研究データ管理(RDM)の取組を進めるに当たっては欧米の優良事例を参考にすべきこと,サブジェクトライブラリアンやデータライブラリアンが必要であること,など活発な意見が交わされた。

電子情報部電子情報企画課・山口聡

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201610rda.html
https://japanlinkcenter.org/top/material/index.html
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=月刊DRF&openfile=DRFmonthly_82.pdf
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-eighth-plenary-meeting-denver-co
https://www.digitalinfrastructures.eu/
http://warp.da.ndl.go.jp/
E1850
E1804