E1004 – 学術コミュニケーションを支えるリポジトリとは<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.163 2009.12.16

 

 E1004

学術コミュニケーションを支えるリポジトリとは<文献紹介>

 

Romary, Laurent; Armbruster, Chris. Comparing Repository Types: Challenges and Barriers for Subject-Based Repositories, Research Repositories, National Repository Systems and Institutional Repositories in Serving Scholarly Communication. Social Science Research Network. 2009, November 23.
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1506905

 2009年6月に“Social Science Research Network”(SSRN)で公開された論文『機関リポジトリを超えて』(E953参照)の著者であるINRIA-Gemo及びベルリンフンボルト大学のロマリー(Laurent Romary)氏と,マックスプランク協会のアームブラスター(Chris Armbruster)氏が,SSRNで新たな論文を発表した。この論文は,『機関リポジトリを超えて』で扱った論点を敷衍し,学術コミュニケーションを最もよく支援できるリポジトリやリポジトリのサービスとは何かを探ることを目的とする。上記の目的のため著者らは,設置主体やコンテンツの種類,デポジットの仕組み等を基に,「主題リポジトリ」「研究リポジトリ」「国営のリポジトリシステム」「機関リポジトリ」という4つの理念型を抽出し,それらの比較を行っている。

 本論ではまず,学術コミュニケーションの2つの主要な変化(「量から質への変化」と「高価値への変化」)とそれらがリポジトリに及ぼした影響を分析している。「量から質への変化」では,増大する学術情報の中から必要な情報まで利用者をナビゲートするサービスが重要となる。著者らの分析によると,この変化に最もうまく対処しているのが,アラートサービスやインパクト統計を提供している「主題リポジトリ」であり,「機関リポジトリ」がこのような利用者向けサービスを提供しているケースはほとんどない。また「高価値への変化」にも,「主題リポジトリ」が最もうまく対応している。例えばarXiv(E812参照)では,初めての投稿者は有名な研究者の推薦がないと投稿できないなど,リポジトリの品質を向上させる取組を行っている。一方,「機関リポジトリ」はこの変化にも対応しておらず,リポジトリが機関の評価活動等に役立つことはあっても,学術コミュニケーションへの貢献は今のところほとんどない,と著者らは評価している。

 上記の分析に続き,本論では,リポジトリ発展の課題及び障害を,(1) 対象コンテンツの識別とデポジット,(2) アクセスと利用,(3) 持続可能性と保存,という3つの分野で論じている。(1)では,重要なコンテンツを識別し,それをリポジトリに登録してもらうにはどうすればよいかという課題を扱っており,デポジットの義務化の効果が限定的であること,デポジット義務化を伴わないリポジトリの成功例などについて紹介している。(2)では,検索エンジンでのコンテンツの可視性が低く,利用が伸びないという課題や,デポジット義務化で収集したコンテンツはアクセス制限期間が過ぎるまで全部を見られない場合があり,学術コミュニケーションに不利であるという課題等について論じている。(3)では,リポジトリの持続可能性が究極的には,利用と利用者満足にかかっていることを指摘し,今のところ「主題リポジトリ」だけが,研究者に受け入れられ,学術コミュニケーションに対して価値を提供できているとしている。

 最後に,欧州,米国,カナダ,日本,オーストラリアの事例を比較し,リポジトリの課題と障害を克服するための方向性を検討している。著者らは本論での考察を通じ,学術コミュニケーションに貢献する世界規模のリポジトリインフラは構築可能としつつも,そのためには,機関リポジトリの改善と目的の再設定,リポジトリ間の協力,アクセスと利用の拡大といった大きな変化が必要であるとの結論を導いている。

Ref:
http://ssrn.com/abstract=1425692
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=Foreign%20Documents&openfile=SSRN-id1425692_jp.pdf
http://openaccess.eprints.org/index.php?/archives/606-Beyond-Romary-Armbruster-On-Institutional-Repositories.html
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=Foreign%20Documents&openfile=BeyondRomaryArmbruster.pdf
E812
E953