カレントアウェアネス-E
No.308 2016.07.28
E1827
学生の「成功」のために大学図書館は学内で連携を(米国)
米国の大学・研究図書館協会(ACRL)では,大学・研究図書館(以下図書館)が設置母体に対してその価値を示すための活動“Value of Academic Libraries Initiative”(E1103,E1298参照)に取組んでいる。その取組の一環として,ACRLは,2013年から,3年間のプロジェクト“Assessment in Action: Academic Libraries and Student Success”(AiA)を開始した。同プロジェクトでは,(1)大学の組織目標として掲げられる学生の学業面での「成功」に係る図書館の価値を立証・発信する図書館員の能力の向上,(2)学内外の利害関係者との連携強化,(3)大学の評価に対して図書館が貢献しうる戦略の策定・実行,を目標としている。2016年4月にACRLが公表したレポート“Documented Library Contributions to Student Learning and Success: Building Evidence with Team-Based Assessment in Action Campus Projects”は,2014年4月から2015年6月まで実施されたAiAの2年目のプログラムの成果をまとめたものである。
AiAでは,図書館が学内の他部門と連携したプログラムを実施することを原則としている。2年目のプログラムでも,参加したコミュニティカレッジ・総合大学・研究大学など様々な種類の大学の図書館64館に対して,図書館員をリーダーとする,少なくとも2名は教員や管理部門,IR部門,ライティングセンター等といった図書館外の職員が参加するチームを結成させている。各チームでは,所属する大学の組織目標と合致する学生の「成功」を示す14の成果と図書館の14の機能との関係を洗い出し,それを評価する手法・枠組みを作成するとともに,評価指標や評価データの収集方法を検討して,実際にそれらの関係性について評価を行なった。各チームがACRLに提出した報告書,21名のチームリーダに対して行ったフォーカスグループ・インタビューの結果,及び,1年目のプログラムから得られた知見を総合的に分析したものが今回のレポートである。
レポートでは,以下の4点において,学生の「成功」に図書館が貢献をしていることを示す証拠が得られたとしている。
- 初年度課程での情報リテラシー教育が新入生の調査研究能力の獲得を支援している
例)ウェストバージニア州立大学:受講による学習能力,情報調査能力の向上
アワー・レディー・オブ・ザ・レイク大学:受講による情報調査・活用能力の向上
- 図書館による利用者教育が課題解決能力の獲得を支援している
例)アーカンソー・テック大学:受講による批判的思考能力の獲得
テンプル大学:ミニテストで示される学習達成度の向上
- 図書館が提供するサービスを利用することで成績が向上している
例)イースタンケンタッキー大学:オンラインリソース活用による成績向上
イリノイ工科大学:図書館が提供する各種サービスの活用による成績向上
- 他部門との連携事業が学生在籍率の向上や学術研究に取組む際の自信(学術的自信)の獲得を支援している
例)イースタン・メノナイト大学:学術支援センターと連携した個別指導プログラムによる学生在籍率の向上
ネブラスカ大学オマハ校:教務部の学生支援プロジェクトへの図書館員の配置による学術的自信の向上
続いて,報告書では,上記4点とは異なり詳しい調査がなされていないものの,分析結果からは,図書館による貢献が認められるものとして,次の5点を提示している。
- 図書館の利用者教育が学生在籍率を向上させている
- 対面型調査相談業務が学生の学習への取組を促進している
- 初年度課程での情報リテラシー教育が大学生活で必要な基礎学力を定着させている
- 図書館利用が学問への親近感や学習への取組を促進している
- 図書館空間の活用が学生の学習と「成功」を支援している
専用ウェブサイトから閲覧できる,参加館の各チームがACRLに提出したレポートでは,学内での組織目標の共通理解の促進,学生の「成功」の定義やその評価基準に関する学内での合意の形成,図書館員のリーダーシップの向上,大学の組織目標に則った図書館の使命の構築といった観点から,図書館が大学評価に貢献するためには,学内の他部門と連携することが重要であると指摘されている。2015年9月に発表された,Gale社とLibrary Journal誌による図書館員と教員の関係性についての調査“Bridging the Librarian-Faculty Gap in the Academic Library Survey 2015”でも,学生の「成功」のためには,両者のさらなる連携・コミュニケーションが必要であるとの指摘がなされている。学生の「成功」のために,図書館は学内で連携することが求められているといえよう。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/issues/value/contributions_y2.pdf
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/issues/value/y2_summary.pdf
http://www.ala.org/news/member-news/2016/04/acrl-report-shows-compelling-evidence-library-contributions-student-learning-and
http://www.acrl.ala.org/value/
http://www.ala.org/acrl/AiA
http://news.cengage.com/library-research/new-survey-academic-librarians-and-faculty-need-more-collaboration-communication-to-influence-student-and-faculty-success/
https://s3.amazonaws.com/WebVault/surveys/LJ_AcademicLibrarySurvey2015_results.pdf
https://apply.ala.org/aia/public
E1103
E1298