E1805 – 米国民の学びと公共図書館に関する報告書

カレントアウェアネス-E

No.304 2016.06.02

 

 E1805

米国民の学びと公共図書館に関する報告書

 

 2016年4月,米国のPew Research Centerが米国民の公共図書館(以下図書館)への意識と学びに関する報告書“Libraries and Learning”を公開した。2015年10月13日から11月15日まで,16歳以上の米国民2,752名を対象として実施された調査“Educational Ecosystem Survey 2015”をもとに,回答者の属性による差異などが紹介されている。また,米国の図書館を対象としたデジタル技術を活用したサービスの提供状況等に関する調査で,2015年10月に結果が公開された米国メリーランド大学情報政策アクセス・センター(IPAC)と米国図書館協会(ALA)による“2014 Digital Inclusion Survey”(回答館数は2,304)の結果とも比較されている。

 本稿で報告書の内容を紹介するにあたり,回答者のうち,過去1年間に図書館・移動図書館に来館した者を「図書館来館者」(44%が該当),図書館来館者及び過去1年間に図書館のウェブサイト・モバイルアプリを利用した者の総称を「図書館利用者」(50%が該当)とする。このほか,「生涯学習者」(lifelong learner)という言葉も用いる。これは報告書では明確に定義されていないが,自力で何かするために知識・情報を集め,個人的な興味関心,仕事のスキル向上などを問わず学ぶ人のことを指すようである。また,報告書から,回答者のうち過去1年間に知識を深める活動に従事した人を「個人的学習者」,過去1年間にスキルの向上または新しい仕事への準備といった,仕事に関連する学びを行った人を「職業的学習者」とする。

◯図書館利用者と学び
 まず,「自身を生涯学習者だと思うか」という設問に対し,「とてもそう思う」と回答した者は全体では73%である。一方,図書館利用者はこの値が79%と多く,情報の入手に関しても「自分の知らないことに直面した時できるだけ情報を集めることを好む」に64%が,「人として成長するための機会を求めている」に62%が「とてもそう思う」と回答しており,非利用者の58%,55%を上回る。そのほか,図書館利用者はインターネット,スマートフォン,ソーシャルメディアをそれぞれ93%,76%,74%が使用しており,それぞれ非利用者より6~10ポイントほど高い。

 次に,個人的学習者には,回答者全体の74%,図書館利用者の84%が該当し,図書館利用者は非利用者にくらべ,興味関心がある分野のハウツー本を読む,趣味や仕事に関係しないイベントへの参加やオンライン講座の受講,などといった個人的学習に積極的である。また,個人的学習を行う場として図書館を選ぶ人は,個人的学習者のうち23%で,特に65歳以上(30%),世帯収入が5万ドル以下(29%),女性(27%)が多い。また,図書館利用者の個人的学習者に特徴的なこととして,図書館に限らず,様々な場所(インターネットを利用するほか,コミュニティセンター・博物館,宗教施設など)で個人的学習を行う傾向にあること,個人的学習を行う効果について肯定的にとらえる傾向にある。

 続いて,職業的学習者には,回答者全体の36%,パートタイムも含む就業者のうち63%が該当する。就業者に関しては,図書館への来館の有無と職業的学習を行うかどうかについては相関関係がない一方,過去1年間に図書館のウェブサイトを利用した人は,職業的学習をよく行うという結果が示されている。これについては,就業者は非就業者に比べ,よくインターネットを利用し,ウェブサイトを通じて図書館資料等に比較的容易にアクセスできるからであると推察されている。また,図書館利用者は,仕事上の人脈形成(69%),社内ないし組織での昇進(52%)という2点において職業的学習が役立ったと回答する割合が高く,非利用者の62%,43%を大きく上回っている。

◯地域社会における学びと図書館
 地域の図書館は教育や学びに関するニーズを満たしているか,という問いに対し,多くの米国民は図書館を肯定的にとらえており,「地域社会にとって」は76%が,「本人とその家族にとって」は71%が,とてもよく(very well)またはよく(pretty well)満たしていると回答した。図書館が地域社会における教育,学びに関するニーズを「とてもよく満たしている」とした割合について,図書館来館の有無,回答者が自身を生涯学習者であるとみなすかどうか,などで差異が見られ,図書館来館者の45%に対し,非来館者は31%であったこと,自身を生涯学習者とみなす人が39%であるのに対し,そうでない人は32%であったことなどが示されている。

 最後に4つのサービスについて,(1)実際にサービスを提供している米国の図書館の割合(“2014 Digital Inclusion Survey”による),(2)“Educational Ecosystem Survey 2015”において地域の図書館がサービスを提供しているかどうか知らないと回答した割合,の2つが紹介されており,それぞれ値は

  • 電子書籍等の貸出:(1)は90%,(2)は22%
  • 仕事やキャリアに関連するオンラインのリソース:(1)は62%,(2)は38%
  • 一般教育修了(GED)あるいは高校卒業程度の内容のオンライン講座:(1)は47%,(2)は47%
  • 起業等のビジネス支援:(1)は32%,(2)は47%

である。

 これらの結果を踏まえ,報告書は,図書館が学びに関するニーズに貢献していると考える米国民は多く,図書館利用者は学びに関する活動を活発に行う傾向にある一方で,相当数の米国民は図書館が学びに関するサービスを提供していることを知らない,とまとめている。

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://www.pewinternet.org/2016/04/07/libraries-and-learning/
http://www.pewinternet.org/files/2016/04/PI_2016.04.07_Libraries-and-Learning_FINAL.pdf
http://www.pewinternet.org/2016/03/22/lifelong-learning-and-technology/
http://www.pewinternet.org/files/2016/03/PI_2016.03.22_Educational-Ecosystems_FINAL.pdf
http://digitalinclusion.umd.edu/content/2014-digital-inclusion-survey-results-released
http://digitalinclusion.umd.edu/sites/default/files/uploads/2014DigitalInclusionSurveyFinalRelease.pdf