E1804 – 研究データとオープンサイエンスフォーラム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.304 2016.06.02

 

 E1804

研究データとオープンサイエンスフォーラム<報告>

 

 2016年3月17日,国立国会図書館(NDL)東京本館で「研究データとオープンサイエンスフォーラム~RDA東京大会における議論を踏まえた研究データ共有の最新動向~」が,NDL,国立情報学研究所(NII)及び科学技術振興機構(JST)の共催により,開催された。本フォーラムの趣旨は,同年3月1日から3日まで東京で開催された研究データ同盟(Research Data Alliance:RDA)第7回総会の参加者による報告を踏まえ,研究データに関する国内外の最新動向を共有することであり,当日は研究者や図書館員の他,出版関係者など約120名の参加があった。

 まず,3人のプレゼンターによる講演があった。NIIの北本朝展氏からは,研究データとオープンサイエンスに関する基礎的知識及び国内外の動向の解説があり,研究データの積極的な利活用が行われるデータ駆動科学の時代を迎えているいま,研究者,図書館員及びソフトウェア開発者も含めたコミュニティを形成することが,研究データ共有に関する課題解決のために必要だとされた。NIIの武田英明氏からは,日本国内の研究データ利活用の現状及び課題,ジャパンリンクセンター(JaLC)が携わる「研究データ利活用協議会」構想が紹介された。情報通信研究機構の村山泰啓氏からは,RDAの組織構成及び活動内容が紹介された。

 次に第7回総会の参加者7名が,各々の関心が高いテーマに関連した分科会の内容と,その分科会で得られた知見に基づいた日本における研究データ共有に関する課題などについて報告した。

 まず,京都大学の能勢正仁氏からは,研究データへの永続的識別子の付与によって可能となる研究データの出版及び引用に関する報告があった。分科会の課題として,研究データの引用と,研究データの引用を計量する方法の標準化や研究データのオープン化の有効性の評価などが挙げられた。出版社や国内研究費助成機関へ働きかけ,研究データの引用の促進を図ることの重要性も述べられた。

 東京大学の小野雅史氏からは,多様な分野の人々が関わる研究データ共有においては,用語の解釈などに誤解が生じぬよう,用語・語彙の整備が重要であるとの指摘があった。また,研究データ共有のためには,メタデータの整備も重要であるため,データ保存よりもデータのキュレーション(オープンサイエンスに関するメタデータの情報管理等)への取組が図書館に求められるとされた。

 総合地球環境学研究所の近藤康久氏からは,政府,自治体,企業,市民など,社会の多様な当事者が協働し,社会課題の解決に取り組む超学際研究(Transdisciplinary approach)とオープンサイエンスが結び付くことによって市民参加型科学が盛んになり,さらに市民参加型科学と社会協働研究との相乗効果が起こり,科学と社会のイノベーションが加速するとの指摘があった。地球環境研究のデータのオープン化状況の報告もあり,特に研究データの品質とメタデータの整備が,オープン化において重視されることが紹介された。

 NIIの蔵川圭氏からは,データ形式の標準化が研究データ共有の課題として挙げられ,データの型定義(data typing)が重要だとした。また,論文と異なり研究データは修正や追加が行われるなど動的な性質を持つため,その引用のためにはタイムスタンプとバージョンを管理したデータベースの整備が必要であるとの報告があった。

 筑波大学大学院の池内有為氏からは,データサイエンスに携わる人材育成及び研究データ利活用のための法的枠組みに関する報告があった。RDAが開催するサマースクールなど,海外の人材育成カリキュラムに関する継続的な調査の必要性と,フェアユースの規定が日本の著作権法にはない等データ共有の実現の障壁となる日本の法制度の問題点を検討することが日本の課題だと述べられた。

 千葉大学附属図書館の三角太郎氏からは,日本の図書館員が研究データを扱うためには,豊富な知識と専門性の高いスキルが要求されるとの指摘があり,海外の事例を参考に,日本の図書館員に求められるスキルを分析することが必要だとされた。

 最後にNDLの福山樹里からは,NDLの科学技術情報整備審議会でまとめられた,「イノベーションを支える「知識インフラ」の深化のための提言~第四期科学技術情報整備基本計画策定に向けて~」の紹介があり,オープンサイエンスのためにNDLが果たすべき役割として,データの恒久的保存に向けた検討の協力,メタデータの標準化と識別子の付与・普及などの取組があると報告した。研究データのメタデータ収集については,これまで出版物を対象としてNDLが培った知見を生かせるのではとの考えを示した。

 その後,村山氏を司会にフロアを交えたディスカッションが行われ,「図書館が扱うべき研究データは,ロングテールデータやスモールデータではないか。」,「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)で保存された大学・研究機関のウェブサイトに埋没している研究データにDOIを付与するなど,現状の整理から始めてはどうか。」など活発な意見が交わされた。また,第7回総会に参加した印象として,「日本人が関わっている分科会は少なく,RDAにおける日本のプレゼンスはまだ低い。」との指摘が複数の参加者からあったことから,今後のRDAにおける日本のプレゼンスをどう高めるかという議論も行われた。

利用者サービス部科学技術・経済課・田村成宏,島﨑憲明

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201603forum.html
https://www.youtube.com/watch?v=qn4ws9fHbQk&list=PLwlAbCcz-l4vnMCR88Xn3-64W-D5huiTO
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9917300