E1579 -日本におけるOAジャーナル投稿とAPC支払いをめぐる調査

カレントアウェアネス-E

No.262 2014.07.10

 

 E1579

日本におけるOAジャーナル投稿とAPC支払いをめぐる調査

 

 国立情報学研究所のSPARC Japanは,日本の学術機関およびそこに所属する研究者を対象とし,論文処理費用(Article Processing Charges,以下APC)に焦点を当てたアンケート調査及びインタビュー調査を実施した。その調査報告書として2014年5月,報告書「オープンアクセスジャーナルによる論文公表に関する調査」を公表した。この調査は,大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE),国立大学図書館協会学術情報委員会,及び,SCREAL(学術図書館研究委員会)の協力を得て実施したものである。

 この調査の背景として,近年のオープンアクセスジャーナル(以下,OAジャーナル)の急速な普及がある。なかでも,従来,読者が雑誌購読費を支払うことで成り立っていた学術雑誌刊行のビジネスモデルに対して,APCを著者が支払うことで論文が刊行されるビジネスモデルが登場したことは,学術情報流通の世界において新たな課題を生み出した。1論文あたりのAPCが高額であるため,研究者にとってはそれをどのように負担するかが課題となり,また,OAジャーナルを刊行する出版社にとっては,それをどのように確保するかということが課題となったのである。欧米では,APCを機関で一括して支払うことでディスカウントされるというモデルも出てきたが,日本においては機関負担モデルの検討は進んでいない。この問題に大学図書館が関与できるのか否かの検討材料とすることも含め,日本の研究者のOAジャーナルに対する意識,OAジャーナルへの投稿実態,APC支払いの実態を把握することが必要であった。

 調査全体は,OAジャーナルへの投稿の現状を把握し,今後のオープンアクセスモデルの在り方について検討するための基礎データとして活用することを目的として,予備調査と本調査(アンケート調査およびインタビュー調査)の2段階で実施された。

 予備調査は,OAジャーナルに投稿経験のある著者が多い大学に調査依頼を行うために,DOAJとElsevier社のScopusを利用した分析が行われた。「APCによるOAジャーナルリスト」(857タイトル)の著者の所属を分析した結果,上位50機関に医学部以外で構成される研究大学を数大学加え,対象大学を選定した。当該大学の図書館に対して調査への協力の呼び掛けを行い,44大学の参加を得ている。

 ついで,2013年12月2日から26日にアンケート調査をウェブ上で実施した。対象者は,理学・工学・農学・医学・歯学・薬学等の自然科学系分野の研究者(大学院生は含まない)とし,大学図書館から該当者への周知を図った。44大学から2,475の完全回答があり,推定回答率は5.2%である。結果のうち特徴的なことを列挙すると以下のとおりである。

  • OAジャーナルでの論文発表率については,分野による差が大きい。
  • 論文の投稿先を選ぶ際に「オープンアクセスであること」はあまり重視されておらず,「分野における評価」,「雑誌の対象範囲と論文の合致」, 「適切な査読の提供」等の従来からの決定要因に適合するOAジャーナルの出現が,OAジャーナルでの掲載論文数の増加を駆動している可能性がある。
  • OAジャーナルに論文を発表しない理由として,回答者の約半数(47.8%)が「高額な掲載費用」を上げ,自由意見において「国あるいは大学レベルでの補助」を求める回答が多かった。
  •  インタビュー調査は,日本の大学・高等教育機関,研究機関等におけるAPCの支払現況について把握するために,各機関の研究支援組織(図書館または担当部署)に対して実施した。調査への協力依頼に対して「インタビューに協力可能」と回答のあった24機関,および,アンケート調査の対象にはならなかったもののAPCの支払いに図書館が関与していると考えられる機関のうちから,8機関を調査対象とした。インタビューで明らかになった点は次のとおりである。

  • 図書館においては,APCをめぐる問題は認知されている。また,大学の設置母体や規模・分野によって違いはあるが,研究者にもAPCに対する認知が浸透しつつあると図書館員は認識している。
  • ほとんどの図書館ではAPCの支払いには関与しておらず,他部署での支払いの実態を把握していない。
  • 大学としてのオープンアクセスポリシーを持っていると回答した機関はなく,OAジャーナルを含む学術リソースの確保と研究発信力強化をどのように位置づけるかが今後の大きな課題と認識されている。

 本報告書では,今後の課題として,従来からの購読契約だけでなくAPCの支払い額を含めた全体としての支出額を把握する必要性は高く,関係者はAPCの機関負担モデルや適切な価格設定等について検討を開始する必要があるという問題提起をしている。電子ジャーナルの購読の確保と機関リポジトリによる研究発信の支援に加えて,研究者がAPCを負担するOAジャーナルまで視野に入れたときに,学術情報の確保と流通の連関の中で図書館はどこに位置づけられ,どのような役割を果たすべきなのか。本報告書での調査結果を基に,次の段階の議論が望まれるところである。

国立情報学研究所・高橋菜奈子

Ref:
http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/report/pdf/apc_wg_report.pdf
http://www.nii.ac.jp/sparc/apc/