E1569 – ICTへのパブリックアクセス:IFLAブリーフィングペーパー

カレントアウェアネス-E

No.260 2014.06.05

 

E1569

ICTへのパブリックアクセス:IFLAブリーフィングペーパー

 

 国際図書館連盟(IFLA)が,2014年5月,情報通信技術(ICT)への「パブリックアクセス」に関するブリーフィングペーパー“Public Access: Supporting Digital Inclusion for All: Maximising The Impact of Information and Communication Technologies for Inclusive Social and Economic Development”を公開した。副題に表れているように,インクルーシブ(包摂的)な社会・経済の発展に向けて,ICTへのパブリックアクセスの重要性を指摘し,それにむけての行動のポイントを示すものである。

 このブリーフィングペーパーは,IFLA,進歩的コミュニケーション協会(Association for Progressive Communications:APC),ワシントン大学のTechnology and Social Change Group(TASCHAグループ)が協同で作成したもので,5月12日から16日にかけて開催された国連の,開発のための科学技術委員会(Commission on Science and Technology for Development)で提示したものである。TASCHAグループは,2007年から2012年にかけて,発展途上国におけるICTのインパクトについての調査研究を実施し,2013年にはその最終報告書として“Connecting people for development: Why public access ICTs matter”を公開しているが,今回のブリーフィングペーパーでも同報告書の成果が参照されている。

 このブリーフィングペーパーでは,「パブリックアクセス」という言葉についての確固たる定義はないと前置きしつつ,それを実現するパブリックアクセスのための施設については,一般的に,誰もが利用できるブロードバンドに接続されたコンピューターがあり,しかも,それらがプリンターやスキャナーのようなICT機器,さらにはインターネット使用のためのテクニカルサポートをも伴っているものである,としている。その施設としては,パブリックアクセス自体を目的として建てられたテレセンター(telecenter)や,あるいは民営のインターネットカフェなどもあるが,図書館や郵便局のような地域にすでに存在している施設も含まれる。これらの既存施設でのサービスは,パブリックアクセスを展開するうえで効果的な方法であり,特に図書館の役割については,多くのコミュニティにおいて,人々がICTを利用することのできる唯一の場所となっていること,そして,よく認知され,尊重され,また国や地方政府により設立・維持されていることなど,そのパブリックアクセス施設としての適性が指摘されている。

 このブリーフィングペーパーのポイントは,TASCHAグループの調査研究等により示されたICTへのパブリックアクセスの重要性を説明しつつ,あわせて政策立案者に必要な行動のポイントを,チェックリストとして示している点であろう。このチェックリストでは,考慮されるべき重要なイニシアティブを6点指摘している。

 まず第一に指摘されているのは,啓蒙活動と情報共有の重要性である。一般的に,パブリックアクセスの重要性に対する認識は十分ではなく,パブリックアクセスのための施設を設置し維持する方法についても知識が不足している。そのため,ベストプラクティスや持続可能な解決策を集め,刊行物や研修を通じて広めていくことが必要であるとされている。

 次に指摘されているのは,インターネットサービスが,競争的に,広範囲に,信頼性のある形で提供されることに貢献するような政策や規制の必要性である。

 三つ目に指摘されているのは,資金の供給やその他の公共政策の実施である。ここでは,国レベルでのものだけでなく,地方自治体レベルでの実施が強調されている。

 四つ目には,人材の重要性が指摘されている。パブリックアクセス施設をサポートしていくには,スタッフが,特に女性やその他参政権のない人にもICTサービスの効果的な活用を支援することができるよう,技術面について研鑽を積んだ人材を十分に確保するような政策が必要であると指摘されている。

 五つ目には,地方に関連性の高いサービス等の開発,特に電子政府サービスに投資することの重要性が指摘されている。これについては,アクセスに対する需要を増大させるのに役立ち,パブリックアクセス施設をより持続可能なものとするとされ,また,とりわけ図書館が,地方での電子政府戦略の実施において効果的な施設となることが指摘されている。

 六つ目には,目標設定と,進捗を見守ることの重要性が指摘されている。目標と指標は,パブリックアクセスの供給や効果を測定できるようなものを採用する必要があり,特に,客観的な方法に基づいたものであるべきことが指摘されている。

 以上のように,チェックリストは,トータルな行動の必要性について注意を喚起したものとなっている。ICTへのパブリックアクセスにおいては,コンテンツが充実すればそれに見合ったデバイスや通信速度をあらゆる人に利用可能なように対応してくことが必要になるものであり,継続的に意識を保っておくべき課題であると思われる。

関西館図書館協力課・依田紀久

Ref:
http://www.ifla.org/files/assets/hq/topics/libraries-development/documents/ifla-apc-tascha_english_20140509.pdf
http://www.ifla.org/node/8626
http://tascha.uw.edu/2014/05/public-access-post-2015/
http://unctad.org/en/Pages/cstd.aspx
http://tascha.uw.edu/publications/connecting-people-for-development