カレントアウェアネス-E
No.260 2014.06.05
E1568
日本の研究者等による学術情報利用に関する調査報告
学術図書館研究委員会(SCREAL)は,日本の学術機関に所属する研究者や大学院生等を対象とし,学術利用行動に焦点を当てた第2回利用動向調査を2011年に行った。2014年3月,その調査報告書として「SCREAL調査報告書:学術情報の取得動向と電子ジャーナルの利用度に関する調査(電子ジャーナル等の利用動向調査2011)」を公表した。
この第2回調査では,45の対象機関から協力を得て,回答者総数は3,922名,回答率は6.04%とされている。対象機関は2007年に実施された第1回調査の25機関から拡大され,質問項目も一部変更されたが,質問項目が以下の二つの観点から設定された点は共通している。一つは,電子情報資源の充実および利用者への浸透が,研究者や大学院生の情報需要および学術図書館に対する期待と要求にもたらす変化を観測すること。もう一つは,学術情報の利用と研究教育活動との関わり合いを明らかにすることである。本稿では,調査報告書の内容の一部を紹介する。
まず電子ジャーナルの利用状況に関して,自然科学分野全体では「週に1回以上」利用するとの回答が76.1%であった。2007年調査の82.3%から6.2ポイント減少している。しかし,調査結果を2007年と2011年の両方の調査に参加した機関と,2011年から新たに参加した機関にわけて集計すると,「週に1回以上」利用するとの回答が,前者は84.8%と2007年の結果よりも2.5ポイント増加しており,後者は67.8%であることがわかった。このことから報告書では電子ジャーナルの利用環境が調査結果に影響を与えているとしている。人文社会学分野では,「週に1回以上」利用するとの回答が2007年調査では41.5%であったが,2011年調査では43.7%と2.2ポイント増加した。2007年と2011年の両方の調査に参加した機関の回答を集計すると,2011年調査では54.9%と,2007年調査より13.4ポイント増加していることがわかった。
印刷体雑誌の必要性に関する質問において,新着雑誌については「電子ジャーナルがあれば印刷体の雑誌は不要である」とした回答者の割合は47.6%,「電子ジャーナルと印刷体の雑誌の両方が必要である」とした回答者の割合47.4%とほぼ拮抗していることが分かった。バックナンバーについては,印刷体は不要とする回答が56.4%で,両方必要とする回答37.9%を18.5ポイント上回った。
求める文献が所属機関で入手できない場合,69.6%が「図書館のILLを通じて入手すると回答したが,この数値は2007年の前回調査と比較すると,教員で11.2ポイント,大学院生で20.3ポイント低下している。次いで「インターネット上の機関リポジトリや著者のサイトを探して入手する」との回答が29.4%であったが,この割合は前回調査と比較すると教員で11ポイント,大学院生で12.4ポイント上昇していることがわかった。
電子ジャーナル以外の情報資源の発見においては,資料発見のツールとして「ウェブ上の検索エンジン」が最も多く利用されていた。図書館のOPACやNACSIS-WebCatでの検索は,毎日あるいは週1-2回利用する割合が,人文社会科学系では教員62.2%,大学院生74.0%と高かったが,自然科学系では教員21.6%,大学院生31.6%と低調であった。また,利用度及び認知度が最も低かったのは「図書館のレファレンスサービスを利用」であった。31.5%の回答者が「以前に利用したことがあるが,最近は利用していない」とし,29.0%が「知っているが利用したことはない」と答えた。
電子書籍端末の利用については,回答者の17.1%が「利用している」,8.7%が「利用したことがある」と回答しており,実際の利用率は高いとは言えないが,47.5%が「利用したことはないが,今後は利用したい」と回答していることから,関心が高いことがうかがえる。
報告書では,回答者からの自由記入を求めた質問に対する意見,要望もまとめられている。このうち図書館サービスの今後の在り方についての要望や意見の項目では,回答の過半数が「電子コレクション」等の「コレクション」に関わる内容であった。報告書では,その理由として,研究者は,コレクションの提供以外の図書館サービスとの接点が少ないことを指摘している。「コレクション」の他には,図書館からの積極的な利用支援・利用案内を求める意見や,時間延長や貸出期間の延長に関する要望があがっている。
関西館図書館協力課・安原通代
Ref:
http://www.screal.jp/
http://www.screal.jp/2011/2011_jpn_all_F.pdf
http://www.screal.jp/2011/SCREAL2011_supplement_r.pdf
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.506
CA1720
CA1820