カレントアウェアネス-E
No.258 2014.04.24
E1560
大学図書館の指導者層の意識調査(米国)
2014年3月11日,米国のITHAKA S+Rが,大学図書館の指導者層を対象とした意識調査の結果をまとめた“Ithaka S+R US Library Survey 2013”と題するレポートを発表した。ITHAKA S+Rは,大学図書館の戦略策定に資するための調査を定期的に行っており,4年制大学の図書館長を対象とした今回の調査は,2010年(E1175参照)に次ぐ2回目である。大学教員を対象とした“US Faculty Survey(E1427参照)”も2000年から3年毎に行われており,今回のレポートでは,2012年の調査結果が比較に使用されている。
調査は電子メールで行われ,有効回答数は499件,回答率は33%であった。調査内容は,戦略とリーダーシップ,予算と人員,学部生と情報リテラシー,蔵書構築,ディスカバリーサービス,学術コミュニケーションと研究支援の6つの観点で分析されている。回答者の所属大学を学士号授与大学,修士号授与大学,博士号授与大学の3グループに分類して回答を集計している。
◯戦略とリーダーシップ
図書館長の97%が,図書館が果たすべき役割として学部生への情報リテラシー教育と教育支援を重視しており,教育の役割に高い優先順位を与えていることがうかがえる。
変化する利用者のニーズに対して充分に対応できる戦略を図書館が持っているとする回答は,2010年の調査からは増加しているものの,引き続き低い回答率にとどまっている。ただし,図書館評価のための情報はさまざまな手段で収集されており,集めた情報は,修士号授与大学では教員や学生のニーズ把握に,博士号授与大学では,図書館の物理的な空間設計や新しい図書館サービスの検討等に活用される傾向がある。
また,図書館に望ましい変化をもたらすにあたっての制約事項として,財源不足をあげる回答が9割近くにのぼり,次いで,半数近くが職員のスキル不足と回答している。なお,図書館長が資金獲得に割く時間の割合は,学位のレベルが高いグループほど高く,博士授与大学では,平均して16%の時間を資金獲得のために費やしていると回答している。
◯予算と人員
予算の増額を仮定した場合,その用途としては,人件費を挙げる回答が最も多く,半数以上が新規スタッフの採用や既存スタッフの賃金向上に充てると回答している。スタッフ配置の優先順位については,今後5年間で人員の増強が必要な分野として,情報リテラシー教育や教育支援,電子情報の保存,ウェブサービスと情報技術,貴重書や特別コレクションを挙げている。一方で,メタデータや目録作成といったテクニカルサービス,貸出などのアクセスサービス,紙媒体資料の管理,レファレンスサービスについては,人員削減を考えている割合が高く,特に博士号授与大学においては,その傾向が強い。
◯学部生と情報リテラシー
学部生の研究スキル向上や情報リテラシー教育を主に図書館が担うとする回答は,図書館長では72%であるが,2012年の教員を対象とした調査では22%にとどまった。図書館員が学部生の研究スキルの向上に寄与するとする回答も,図書館長では約8割であるが,教員では約4割である。この認識の相違については,さらなる検討が必要になる論点であることが指摘されている。
◯蔵書構築
図書館長は,総じて,紙媒体の資料費の削減を検討しており,今後も電子化への流れが続くと予測している。雑誌については,図書館長は6割以上が電子媒体の資料で代用できるとするのに対し,教員では4割程度にとどまっており,ここでも教員との認識の相違がうかがえる。一方で,図書については,電子媒体の資料が利用できれば除籍してよい紙媒体資料は全体の1割以下であるとする回答が,図書館長では9割近くにのぼっており,置き換えを想定していないことがうかがえる。博士号授与大学では,蔵書構築に関する図書館の機能を高く評価しており,特色あるコレクション構築,蔵書のデジタル化,電子情報の保存などは他のグループよりも重視する傾向が強い。
◯ディスカバリーサービス
4分の3近くの館がディスカバリーサービスを導入済であると回答している。未知文献の探索,自館で利用できるオンラインリソースへのリンク,経験が浅い利用者のニーズへの対応において有効であるとみなされている。一方で,図書館のウェブサイトへの利用者の呼びこみ,熟達した利用者のニーズへの対応,既知文献の探索という点においては,ディスカバリーサービスは有効に機能しないと認識されている。
◯学術コミュニケーションと研究支援
博士号授与大学においては,機関リポジトリの提供,教員の研究成果の提供と保存,研究データや研究成果の管理支援の役割を重視している。ただし,全体としては,図書館が果たすべき役割として研究支援を重視するとした回答は,2010年の85%から68%に減少しており,その他のグループにおいては,研究支援の役割の優先順位は高くないと認識されていることがうかがえる。
報告書では,回答に現れるスタッフの増員への要望や,スタッフのスキルへの懸念といった図書館長の認識から,人的資源管理が今後数年間の課題になると指摘している。
関西館図書館協力課・篠田麻美
Ref:
http://www.sr.ithaka.org/research-publications/ithaka-sr-us-library-survey-2013
E1175
E1427