カレントアウェアネス-E
No.257 2014.04.10
E1552
英国の読書習慣調査:読む派と見る派に二分されている?
読書推進活動などを行うBooktrustが,2014年3月11日,英国の成人の読書習慣に関する調査報告書“Booktrust Reading Habits Survey 2013”を公開した。この調査は,Booktrustが調査会社DJS Researchに委託して実施したもので,18歳以上の1,500人に対して電話調査を行っている。Booktrustは,調査結果から,英国が本を読む人たちと,テレビやDVDを見る人たちの“二つの国”に分断されている傾向が示されていると,ややセンセーショナルにまとめ,懸念を表明している。
報告書は,第1節で手法等について示したうえで,第2節「読書」で,読書の頻度,本の所有,本の購入について,調査の結果を示している。続く節では,第3節「読書の喜び」で,読書を楽しいと感じる程度,楽しい(あるいは楽しくない)理由について,第4節「読書への態度」で,読書がもたらすもの(恩恵),読書の障害となっているもの,読書とデジタルメディアの選好について,第5節「読書の好み」では,フォーマット,タイプ,分野,選び方,読む場所について,第6節「世代を通じた読書」では,読書歴,子どもとともにする読書について,それぞれ結果を示している。これらの結果は,社会経済グループ(SEG: Socio-Economic Group)別,年齢別などで示されている。このほか,調査データのクラスター分析を行い,英国民を読書習慣から9つに類型化し,この類型別でも結果を示している。類型はS1「本の虫」,S2「読書好き」,S3「雑誌世代」から,S7「読む時間がない」,S8「読書嫌い」,S9「読まない」などとなっており,付録1にそれぞれの属性がまとめられている。また,最後の第7節において,貧困に関する指数である“デプリベーション指数”を用いた分析結果も示されている。ここでは既存の2種類のデプリベーション指数,すなわちIMD(Indices of Multiple Deprivation)及びIDACI(Income Deprivation Affecting Children Index)と結びつけて分析している。IMDとは生活資源の欠乏状態を示す指数であり,所得,雇用,健康と障害,教育,犯罪等の領域ごとに数値を算出し,総数を導き出すものである。またIDACIは,低所得世帯に住む子どもの割合を示す指数である。いずれも小地域ごとに算出されるものである。
読書の頻度の結果は,紙の本に関しては,毎日読む28%,毎週読む22%,たまに読む30%,読まない18%である。電子書籍については,読まない人が71%を占めている。本を買う頻度の結果は,毎週6%,毎月18%,1~半年ごと24%などとなっており,全く買わない人は25%である。読書をどの程度楽しいと感じているかについては,5段階評価で最も楽しいと感じている人から,49%,23%,12%,8%,8%となっており,楽しいと思わない人が全体の30%弱を占める結果となっている。
読書の恩恵については,読書は生活を向上させるとの考えに賛同している人は76%,読書は充足感が得られるという考えに賛同している人も同じく76%となっている。その他,リラックスさせてくれる,楽しい,新しいことを学ぶことができるなどのポジティブな考えについて,多くが賛同している。一方,読書の障害に関しては,本を読み始めてもすぐに飽きるという理由に賛同する人は36%,読む時間がないという理由に賛同する人は35%,読書が困難なものだとの考えに賛同する人は17%となっている。
インターネットやコンピュータが今後20年のうちに本にとって代わるとの考えに賛同する人は56%であり,読書よりもテレビやDVDを好む人は45%,読書よりもインターネットやソーシャルメディアを好む人は27%となっている。これらについては,男女とも若い世代ほどその比率が高くなっている。
社会経済グループ別の結果については,AB(管理職・専門職など),C1C2(準管理職・準専門職など),DE(単純労働・年金生活者・失業者など)の3グループに大別されデータが集計されている。本を全く読まない人の比率は,ABで13%,C1C2で17%,DEで27%となっており,毎日あるいは毎週読む人は,ABで62%,C1C2で51%,DEで42%となっている。また本が生活を向上させると感じている人の比率は,ABで83%,C1C2で76%,DEで72%となっており,読書で充足感が得られると回答した人の比率はABで85%,C1C2で77%,DEで69%となっている。さらに,インターネットやコンピュータが本に置き換わると考えている人,読書よりもテレビやDVD,インターネットやソーシャルメディアを好んでいる人の比率は,いずれも高い順からDE,C1C2,ABとなっている。いずれも社会経済的状況の違いにより,読書習慣の違いが表れた結果となっている。
同様の傾向は,デプリベーション指数を用いた分析結果でも表れている。第7節は,読書習慣による類型に従い,それぞれの類型の指数を提示している。これによると,IMD,IDACIともに,全体傾向として,読書を比較的好む類型(S1~S6)は,読書を好まない類型(S7~S9)に比べデプリベーションのレベルが低くなっている。この報告書に示された結果は,英国における読書推進にあたっては,生活資源の欠如した不利な環境にある地域へのアプローチが重要となることを示すものと思われる。
関西館図書館協力課・依田紀久
Ref:
http://www.booktrust.org.uk/news-and-blogs/news/267/
http://www.booktrust.org.uk/usr/library/documents/main/reading-habits-executive-summary-final.pdf
http://www.booktrust.org.uk/usr/library/documents/main/1576-booktrust-reading-habits-report-final.pdf