カレントアウェアネス-E
No.250 2013.12.12
E1514
PIRUS実務指針第1版が公開:論文単位の利用統計
図書館における電子ジャーナル等の電子情報資源の利用統計の標準に,COUNTER実務指針(CA1512,CA1666参照)がある。しかし,COUNTER実務指針で定義されているのは,データベース単位や,最小でも雑誌タイトル単位までの利用統計であり,論文単位での利用状況の把握が課題であった。そこで,出版者と機関リポジトリの利用統計プロジェクト(Publisher and Institutional Repository Usage Statistics: PIRUS)が立ち上がり,COUNTER実務指針に即した形で,論文単位の利用統計の記録と提供についての実務指針を検討してきた。その成果として2009年1月の報告書,2012年11月の実務指針ドラフト版に続き,2013年10月,「論文単位の利用統計の記録と提供に関する実務指針第1版(The PIRUS Code of Practice for recording and reporting usage at the individual article level: Release1)」(以下,実務指針)が公開された。
実務指針は,論文単位の利用統計を記録,交換,相互運用するための枠組を示すもので,集計される論文の種類やバージョン,論文本文へのリクエスト成功数など集計されるデータの要素とその定義,利用レポートの内容とフォーマット,データ処理の要件,複数のゲートウェイやアグリゲータを仲介する場合に重複集計を避けるためのガイドライン等を含んでいる。なお,PIRUSでは,その指針に準拠する機関に対して毎年監査を行い,PIRUS準拠機関として認定する。その監査の要件も実務指針に含まれている。実務指針の構成は,COUNTER実務指針とほぼ同一である。
実務指針では,論文単位の利用データの収集,集約と提供のための利用レポートが3種類定義されている。出版者やリポジトリに対して収集すべきデータ項目を示した「論文レポート1」,個々の論文単位で集計する「論文レポート2」,著者単位で集計する「論文レポート3」である。このうち「論文レポート2」「論文レポート3」が,出版者や機関リポジトリから著者やその所属機関に最終的に提供されるものとして位置づけられている。
「論文レポート2」は,著者名,論文のデジタルオブジェクト識別子(DOI)別に,論文本文へのリクエストの成功数を月別に集計するものである。「論文レポート3」は,個々の論文本文へのリクエストの成功数を月別に集計し,著者単位でまとめるもので,著者の研究者識別子(ORCID;CA1740参照)を必須とする。
利用統計の作成頻度については,COUNTER実務指針が月次としているのに対し,少なくとも年次の提供を必須としている(ただし集計は月単位)。これは,最終報告書で目指されている,月次での定常的な作成により発生する莫大なデータ量と扱いにくい巨大なレポートを避けるという実際的なアプローチを反映していると考えられる。またファイルフォーマットは,Microsoft ExcelやTSVなどの形式,またPIRUSスキーマ準拠のXML形式での提供を必須としている。COUNTERと同様に,SUSHIプロトコル(E419参照)によって,各ベンダーが提供する利用レポートをローカルシステムに自動収集する際にはXML形式のデータが使用される。
論文の種類は,研究論文,レビュー論文を集計の対象としているが,論説,書評,学位論文についても許容している。また,論文のバージョンは,英国学会・専門協会出版協会(ALPSP)と米国情報標準機構(NISO)のワーキンググループが定義する7つのバージョンのうち,著者オリジナル版と審査中の提出版を除いた5つを集計の対象としている。具体的には,受理済み版,校正過程の版,確定版,確定後に誤りなどの訂正を行った版,確定後に補足や更新を行った版である。
PIRUSの中央処理機構(Central Clearing House)にも特徴がある。出版者,アグリゲータ,リポジトリやその他の情報源から利用データを収集,処理し,統合的な論文単位の利用統計を作成し,提供する役割を担っている。具体的には,ウェブサイトで,出版者やリポジトリ等から収集した論文本体へのリクエスト成功数の総計などを提供する。また,DOIやタイトル,著者名で論文を検索でき,「論文レポート2」なども作成できる機能をもつ。中央処理機構のほか,統計の集約・統合を行う,国や地域別の統計処理機関も選択肢として想定している。この統計処理機関はリポジトリから利用データを集約し,PIRUSの中央処理機構にPIRUS準拠の論文単位の利用統計を提供する役割を担う。具体的には英国の国家的な機関リポジトリ統計の処理機構であるIRUS-UKが想定されている。
なお,実務指針のドラフト版の概要については,機関リポジトリのアウトプット評価のための基盤構築にかかる活動について報告した,千葉大学『機関リポジトリのアウトプット評価 プロジェクト最終報告書』の中でPIRUSプロジェクトの経緯とともに詳しく紹介されている。あわせて参照されたい。
関西館図書館協力課・篠田麻美
Ref:
http://www.projectcounter.org/pirus.html
http://www.projectcounter.org/documents/Pirus_cop_OCT2013.pdf
http://www.projectcounter.org/r4/COPR4.pdf
http://www.niso.org/publications/rp/RP-8-2008.pdf
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/programmes/pals3/pirus_finalreport.pdf
http://www.irus.mimas.ac.uk/
http://www.ll.chiba-u.jp/roat/
http://www.ll.chiba-u.jp/roat/document/ROAT_Final_Report_J.pdf
CA1512
CA1666
CA1740
E419