E1333 – 北欧・デンマークにおける日本研究と北欧アジア研究所図書館

カレントアウェアネス-E

No.222 2012.09.13

 

 E1333

北欧・デンマークにおける日本研究と北欧アジア研究所図書館

 

 2012年8月22日から24日まで,国際日本文化研究センター(以下,日文研)の海外シンポジウム「Rethinking “Japanese Studies” – from Practices in the Nordic Region(「日本研究」再考-北欧の実践から)」が,デンマークのコペンハーゲン大学で開催された。

 日文研では日本研究を通じた学術交流促進のため,1995年からほぼ毎年海外シンポジウムを開催している。今回は約40年の日本研究の歴史を持つコペンハーゲン大学での開催となったが,これは北欧では初となる。小松和彦・日文研所長やレイン=ラウド・コペンハーゲン大学教授による基調講演,宗教・日本哲学・歴史などの観点からの計15件の発表やディスカッションが行なわれた。近年の海外における日本研究では従来の学問領域・地域の枠組みを越える試みが進んでおり,本シンポジウムのような活動が連携・人的ネットワークの形成につながることが期待される。

 シンポジウムでは筆者自身も,ライブラリアンによるインフォーマル・トークとして,北欧で日本製e-resourceへのアクセスを提供するAsiaPortalなどの紹介を行なった。またコペンハーゲン滞在中,デンマーク王立図書館やコペンハーゲン大学アジア図書館などの,日本研究を支える図書館をいくつか訪問・取材する機会を得た。本稿ではAsiaPortalの提供などにより北欧のアジア研究をサポートする北欧アジア研究所(Nordic Institute of Asian Studies:NIAS)とその図書館について紹介する。

 NIASは,デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランドにおけるアジア研究(主に現代アジアの社会科学分野)を支援する拠点として1968年に設立された。北欧におけるアジア研究は比較的規模が小さく,研究者や活動場所が孤立・散在していることが多い。そのためコラボレーション,サポート,ネットワークの提供などが必要となる。NIASは北欧各大学の研究者・学生を広く支援対象とし,学際的・横断的な研究活動や研究支援・教育・図書館サービスなどを行なう。5か国23の大学・研究機関からなるNordic NIAS Council(NNC)がNIASを組織し,実際の運営はコペンハーゲン大学社会科学部のもとで行なわれている。

 NIASは,コペンハーゲン大学の南部キャンパス近くのビルの中にある。その1フロアを図書館(NIAS Library and Information Center)が占めている。図書約38,000冊,雑誌約1,400タイトルを所蔵し,北欧地域ではもっとも充実したアジア研究専門図書館である。蔵書はアジア現代史・社会科学分野の西洋言語によるものが中心である。そのうち日本関係の資料は図書約2,300冊,雑誌約300タイトルあり,これもやはりほとんどが西洋言語のものである。

 同館の蔵書は研究者・学生だけでなく一般にも公開されている。ILLによる資料提供も多いが,来館による他大学・北欧各国からの利用も多い。コペンハーゲンは国際空港が都心の近くにあり,他国からも訪れやすい場所にあるとのことである。なおNIAS及びその図書館は2012年10月にコペンハーゲン大学の中央キャンパスに移転することになっている。移転先にある同大学社会科学図書館との連携が期待される一方,これまで同ビル内にあった同大学アジア図書館(人文科学・日本語資料が主)とは離れることになる。

 またNIAS図書館はAsiaPortalというwebサイトを構築・運営している。NIASはNNC参加機関の参加費などをもとにアジア研究に必要なe-resourceを契約し,このAsiaPortalを通して参加機関の研究者・学生に提供している。有料データベース約70件,電子ジャーナル約500タイトルのうち,日本製のe-resourceとして「JapanKnowledge」,「CiNii」(機関定額制),「聞蔵IIビジュアル」(朝日新聞),「日経テレコン21」,「WHOPLUS」がある。

 AsiaPortalは2005年から提供されているが,利用者はこのサイトを経由してデータベースにアクセスしなければならない,各機関があらかじめIPアドレス登録などの手続きをとらなければならないなど,必要なことが周知されていないことがあり,広報面で課題があるということだった。またNIAS図書館に限らず,海外にある多くの日本研究・アジア研究図書館で問題とされていることだが,日本製e-resourceの数が少なく,海外でスムーズに契約できるものはその中でもさらに限定される。分野・対象地域を問わず研究におけるe-resourceの利用は不可欠であり,国内・海外に関わらず契約・利用しやすい日本製e-resourceの整備が望まれる。

(国際日本文化研究センター・江上敏哲)

Ref:
http://www.nichibun.ac.jp/research/sympo/programs/copenhagen.pdf
http://nias.ku.dk/
http://nias.ku.dk/nias-library
http://www.asiaportal.info/