E1296 – チャットレファレンスにおける質問明確化の実態は?

カレントアウェアネス-E

No.216 2012.06.14

 

 E1296

チャットレファレンスにおける質問明確化の実態は?

 

 レファレンスサービスにおいて,利用者からの質問を明確化するプロセスは不可欠なものとされ,対面のレファレンスサービスにおける質問明確化の研究は,海外では,既に長い歴史を持つ。米国においては,近年,従来の対面や電話での質問受付に替わり,チャットソフト等を利用した質問受付の比重が大きくなっているあるが,これら対面とは異なるバーチャル・レファレンスサービス(VRS)の環境においても,質問明確化プロセスの理解が重要であると指摘されている(E1202参照)。

 米国ラトガース大学准教授のラドフォード(Marie L. Radford)らは,世界中の1,000館以上の図書館が協同してVRSを提供しているQuestionPointに蓄積されたチャットセッションの記録を用い,質問明確化の解明に取り組んだ。この研究は,米国図書館協会(ALA)のレファレンス・利用者サービス協会(RUSA)の査読誌Reference & User Services Quarterlyの2011年3月号に“Are We Getting Warmer?: Query Clarification in Live Chat VirtualReference”と題し掲載された。前半部分では,対面レファレンスサービスでの質問明確化も含め,同テーマについての綿密な先行研究レビューを行い,そこで得られた知見を確認している。その上で,2004年から2006年に約65万件のデータの中から無作為抽出した850件のチャットの記録を,丁寧な読み込みにより比較分析し,さらに独自に開発した「質問明確化コーディング・スキーマ」を用いて質的内容分析を行い,質問明確化についての複数の事実を明らかにした。

 分析において明らかにされた事実には以下のものがある。(1)VRSにおいても,質問明確化が行われており,その大半は図書館員の問いかけによるものであること。(2)質問明確化のプロセスにおいて図書館員と質問者との間で交わされる情報には,質問のトピック,質問の背景,質問に至るまでに行った調査,求める情報の深さ,情報のタイプの5つがあること。(3)利用者は,自らの情報ニーズを,検索の最中に提供する傾向があるのに対し,図書館員は,明確化のための問いかけを,検索の前に重点的に行っていること。(4)利用者は,図書館員が誤解をしているときに質問を明確化し,一方図書館員は,利用者が既に調べたことなどを聞き出すことを目的に質問明確化を行っていること。(5)図書館員による質問明確化のための問いかけには,クローズドクエスチョンに比べ,「なぜ?」などのオープンクエスチョンは約2分の1程度使用されていること。(6)明確化するための問いかけが行われた場合,簡易な事実調査のレファレンスサービスの回答の正確さが大幅に向上していること。

 これらの事実を基に,ラドフォードらは,いくつかの推奨すべきことにも言及している。例えば,チャットセッションにおいても質問明確化は行われるべきであることや,図書館員に対する研修においては,質問明確化に有効であるとされるオープンクエスチョンをもっと使うように強調したりするとよい,などである。また,誤解などをただす機会となるとされるフォローアップの問いかけは,チャットでも半数で行われており,図書館員がこの種の問いかけを使えるよう研修することにより,サービスの満足度は向上するだろうとしている。

 RUSAは,この研究を高く評価し,2012年のレファレンスサービスプレス賞(Reference Service Press Award)に選んでいる。対面レファレンスサービスの文脈の上に,VRSという新しいサービス形態に関する研究を位置づけたこと,そして背景の異なる多様な図書館における経験の集積を分析し明らかにされた事実は,サービスの高度化や理論化にとって大きな意味をもつものであると考えられる。注目に値する研究文献といえよう。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://www.ala.org/news/pr?id=10396
http://rusa.metapress.com/content/h6u7779157427545/
E1202