カレントアウェアネス-E
No.198 2011.08.11
E1202
効果的なバーチャルレファレンスサービスを行うためには
OCLCは,2011年6月に,対面ではなくオンライン上のチャットや電子メール等により行われるバーチャルレファレンス(VR)サービスに関するレポート“Seeking Synchronicity”を公表した。このレポートは,2005年から2008年にかけて行われた,図書館員,利用者,非利用者を対象にしたインタビューとアンケート,VRの事例分析等の結果概要と提言等をまとめたものである。
レポートの各章では,潜在的利用者の獲得,利用者と図書館員のVRに対する考え方の違い,利用者の世代による行動の違い,VRの成功のために必要なこと,質問の明確化,利便性,等のテーマについてまとめられており,それに続く結論部分で全般的な提言等が示されている。以下に,結論部分の概要を紹介する。
結論部分では,まず,調査から判明した点が簡潔にまとめられている。それらは,利用者はVRについて知らない,利用者はいつでもどこでも使えるという利便性を求めている,質問を明確化することが重要である,利用者がVRサービスに好感をもつかどうかは正確な回答を感じのよい図書館員から得られるかどうかにかかっている,等である。
そして,そうした点を踏まえ,図書館として,また図書館員個人として,何ができるかが示されている。
まず,図書館としてできることとして,次のような点があげられている。
- 利用者と直に接する機会にVRの宣伝をする。その際,「簡単ですよ」と伝えるだけでなく,実際にデモを交える。
- モバイル端末にも対応する。PCを持っていない貧困層や若年層等は,レファレンスサービスをより必要としている層でもある。
- 地域,時間帯,専門分野等の異なる図書館と協同でのVRを行うことで,サービスレベルを保ちながらコストを抑えることができる。
- 図書館のウェブサイトやOPAC,さらにはブログやFacebookのページ等,利用者の使用する様々な画面で,VRのためのチャット用ツールを入手できるようにする。
次に,個人としてできることとして,次のような点があげられている。
- 対面でのレファレンスサービスを行う際に,対面以外でのコンタクト方法 も案内する。チャットや電子メール等のVRについての情報を記載したカードや,QRコード(二次元バーコード)からアクセスできる電子版パンフレットを作成するのもよい。
- 図書館として実施できないなら,自分で試行的にやってみることを考える。VRは,個人として持っておくべき専門的技能である。
- 自身がVRに慣れてきた時や多忙な時でも,丁重さを忘れないことが肝心である。利用者にとっては,回答内容と同じくらいかそれ以上に,図書館員の態度と人柄が重要である。
- VRでは利用者の反応がつかみにくいので,回答では可能な限り多様な情報を提供する。利用者は検索エンジン等で多くの結果が出るのに慣れているので,内容の説明を付けられるような場合は,求められた以上のものを示してもよい。
- 複雑な質問等に対しては,急ぎかどうかを確認したうえで,質問を他の図書館員等に回してもよい。利用者を待たせることになっても,中途半端な回答を提供するよりはよいことが多い。
そして,最後のまとめの部分では,レファレンスインタビューにおいて質問を明確化することの重要性が改めて強調されている。利用者に尋ね,その返答に注意を払うことで,その利用者に合わせたサービスを行うことができ,それが「名前も顔もない白い検索ボックス」と図書館員を分けるものであると述べられている。正しい回答を示すだけでなく,対話をする能力を発揮することで,利用者のニーズを理解し,信頼関係を築き,利用者に安心感を与えることができるとしている。
Ref:
http://www.oclc.org/news/releases/2011/201144.htm
http://www.oclc.org/reports/synchronicity/default.htm
http://www.oclc.org/research/activities/synchronicity/