E1297 – 分野別リポジトリの持続可能性について実例をもとに考える

カレントアウェアネス-E

No.216 2012.06.14

 

 E1297

分野別リポジトリの持続可能性について実例をもとに考える

 

 米国OCLCの研究部門OCLC Researchが,2012年5月11日に,分野別リポジトリの持続可能性をテーマとするレポート“Lasting Impact: Sustainability of Disciplinary Repositories”を公表した。図書館員を対象としたこのレポートは,PubMed Central等の代表的な分野別リポジトリの運営体制やビジネスモデルを解説し,それらの持続可能性について考える手助けとなることを目指したものである。以下,その概要を紹介する。

 レポートはまず,多種多様なリポジトリが「パッチワーク」のように存在している状況について概観している。多くの大学が機関リポジトリを設置しているが,研究者にはあまり関心を持ってもらえない。対して,研究者自身によって立ち上げられることの多い分野別リポジトリは研究者の利用や貢献において成功する可能性が高いが,リポジトリを持たない分野も存在し,その場合は機関リポジトリが頼りにされることもある。その他にも学術出版社や助成機関等によってリポジトリが開設されており,同一の文献がしばしば複数のリポジトリに重複して登録されるといった問題も存在している。

 続いてリポジトリの世界ランキング等に基づき,(1)農業経済分野の“AgEcon Search”,(2)数学・物理学分野の“arXiv.org”,(3)経済学分野の“Economists Online”,(4)図書館情報学分野の“E-LIS”,(5)生命医学分野の“PubMed Central”,(6)経済学分野の“RePEc”,(7)社会科学分野の“SSRN”,という7つの分野別リポジトリを選び,それらについて詳しく解説している。

 これらは,その規模,コンテンツの種類,フルテキストの有無,コンテンツ収集方法,質のコントロール,サービスへの課金状況,付加価値サービス等において様々な状況にある。特に,資金及び人的資源の主な確保手段については多様であり,7つのリポジトリはそれぞれ,(1)機関によるサポート,(2)利用の多い機関による資金分担,(3)コンソーシアム参加機関によるサポート,(4)組織化されたボランティアによるサポート,(5)連邦政府機関による資金提供,(6)中央管理機構を設けないボランティアによるサポート,(7)民間企業による「フリーミアム」(基本の無料サービスに加えて有料の付加価値サービスを提供する)モデル,という方法を取っていた。

 その上で,レポートでは分野別リポジトリの持続可能性について整理している。前述の例を見てもリポジトリを持続させるためのアプローチは様々であり,また実態として,多くは複数のアプローチを組み合わせたモデルを採用している。例えば,リポジトリの立ち上げにおいては助成金を利用し,運用段階においては協力してくれる機関や熱心なボランティアを活用するといったようにである。また,どのようなモデルを取るとしてもサービス継続計画を策定しておくことが必要であるとしている。

 まとめとして著者は,機関リポジトリと分野別リポジトリの役割は共に続いていくだろうと述べ,図書館員はそれらの役割や連携,各々のゴールを達成するために成し得る協働について考えるべきであると指摘する。そして,最後に,大学,図書館,及び研究者は,どうすればこの「パッチワーク」なリポジトリの世界を最大限に活用することができるだろうか?と問いかけている。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.oclc.org/research/news/2012-05-11.htm
http://www.oclc.org/research/publications/library/2012/2012-03.pdf
http://ageconsearch.umn.edu
http://arxiv.org
http://www.economistsonline.org
http://eprints.rclis.org
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc
http://repec.org
http://ssrn.com