カレントアウェアネス-E
No.200 2011.09.08
E1213
米国図書館協会による,図書館民営化の論点等をまとめた資料
米国では,2011年7月からカリフォルニア州のサンタクラリタ市で民間企業LSSI社による公共図書館の運営が開始されるなど,営利企業による公共図書館の運営に注目が集まっている。米国図書館協会(ALA)は,2011年6月に,公共図書館の民営化が検討されている自治体の図書館関係者に向けて,主な論点や注意すべき点,行動の提案等を示した文書“Keeping Public Libraries Public”を公表した。以下にその概要を紹介する。
文書の冒頭では,公共(public)のための図書館サービスの方針決定や運営管理を営利企業に移行することに反対するという,2001年に決定されたALAの方針が示されており,この文書全体も,民営化に反対する立場からのものとなっている。
まず用語定義の部分で外部委託と民営化の違いが説明され,外部委託は一部の業務を対象としたもので図書館職員がサービス内容を決定できるのに対し,民営化ではサービス内容決定も含めた全ての業務が含まれることになり,多くの問題が発生するとしている。
民営化の主な問題点としては,利益を確保しながらサービスの維持・向上ができるのかという点,コミュニティの意思が反映されにくくなる恐れがある点,税金の使途についての透明性が低くなる点,プライバシー保護等の知的自由についての懸念がある点,公共組織として受けていた寄付等を失う可能性がある点,等が挙げられている。
そして,図書館関係者が主張すべき点として,知識や情報へのアクセスは民主主義の基盤となる公益であること,図書館は短期的な商業的利益ではなくコミュニティの長期的な利益を考慮して運営されるべきものであること,職員や設備へのしわ寄せによりサービス低下の懸念があること,自治体にとって経費削減となるとは限らないこと,等が挙げられている。
注意すべき具体的な点を示したチェックリストは2つあり,民営化するかどうかの検討段階向けのものでは,資金,サービス内容,コミュニティの意思の反映,政策決定,組織とスタッフ,法的問題,に関して合計33のチェックポイントが列挙されている。民営化の契約内容の検討段階向けのものでは,契約内容に盛り込むべき点として,報告や監視,業績測定等の9つのチェックポイントが示されている。
図書館関係者がとることができる行動の提案としては,以下のような事項が示されている。
- 民営化に対する最大の防御は,図書館の運営母体とよい関係を築いておくことと,可能な限り最善のサービスを提供することである。そのための方法としては,コミュニティのニーズに応じることで図書館の価値を示すこと,運営母体の職員に定期的にコンタクトを取ることや図書館活動に関与してもらうこと,業務を常に改善しそれを運営母体に知らせること等がある。
- 民営化の話が出てきた時の対応のために,サービスや財政について文書化しておく等の事前の準備が必要である。話が出てきた時には,適切なタイミングで反対を示すとともに,なぜ民営化が検討されるのかを分析し,それに応じて,現体制での業務効率化や図書館の役割について運営母体への説明を行う。
- 民営化が決定された後では,サービスの質を保証させることが目標となる。上記のチェックリストを活用して契約において説明責任が確保されるよう主張するとともに,図書館の方針や活動が定期的に監視できるようなチェック項目を契約に定めておくようにする。
なお,文書によると,米国で公共図書館の民営化が検討され始めたのはここ10年のことで,文書作成時点までに約20の地域において民営化契約が結ばれているが,そのうち6つは,契約が終了したか更新されなかったとのことである。
Ref:
http://www.ala.org/ala/professionalresources/outsourcing/ALAKeepingPublicLibrariesPublicFINAL0611.pdf
http://americanlibrariesmagazine.org/news/ala/ala-launches-new-resource-address-privatization-issue
http://www.ala.org/ala/professionalresources/outsourcing/index.cfm
http://www.libraryjournal.com/lj/home/891415-264/santa_clarita_library_opens_its.html.csp
http://americanlibrariesmagazine.org/news/07272011/privatization-and-pushback-proceed-santa-clarita
http://americanlibrariesmagazine.org/features/07122011/who-s-boss