カレントアウェアネス-E
No.200 2011.09.08
E1210
被災地支援活動紹介(2)遠野文化研究センター
2011年3月11日の東日本大震災の発生以降,日本各地で本を通じた被災者支援が行われている。その中で,資料救出活動や図書館への献本活動を行っている岩手県遠野市の「遠野文化研究センター」学芸員の菊池信代氏にインタビューを行った。
●遠野文化研究センターの概要についてお聞かせください。
遠野文化研究センターは2011年4月1日に設置された新しい組織です。遠野市には『遠野物語』をはじめ,人々のくらしの中で生まれて受け継がれてきた豊かな文化資源があります。当センターは,これらの文化資源を調査・研究・活用して,遠野を元気にするための活動を行っています。
●三陸文化復興プロジェクトについてお聞かせください。
いわばシンクタンクとして設置された遠野文化研究センターですが,3月11日に発生した東日本大震災を受け,三陸沿岸被災地の復興を支援しようと三陸文化復興プロジェクトがスタートしました。
遠野市は古くから三陸沿岸と内陸を結ぶ交通の要衝として栄えたところで,三陸沿岸の被災地とも文化的に深いつながりを持っています。今回の大震災では,人々が長い間大切に守り伝えてきた「文化」も数多く失われてしまいました。私たちは,今後長きにわたる復興には地域のアイデンティティたる文化が不可欠であると考え,被災した博物館・図書館資料の救出やクリーニングを行う文化財レスキュー活動,被災した公立図書館・学校図書室の復興のため全国から本を募集して送る献本活動の2つを柱に活動を行っています。
これらの活動には当センター職員12名に加え,遠野市立博物館や遠野市立図書館の職員,そしてたくさんのボランティアの方々に携わって頂いています。特に神奈川大学の学生ボランティアの方々には,プロジェクト開始直後からリレー形式で協力を頂き,貴重な戦力となっています。
●被災資料のレスキュー・修復活動についてお聞かせください。
陸前高田市,釜石市,大槌町を中心に,被災した資料や図書のレスキュー活動を行ってきました。現在は大槌町立図書館から救出した,明治から昭和期にかけての議会資料158冊や明治・昭和三陸大津波などに関する貴重な資料のクリーニング作業を行っています。
資料は海水や泥にまみれ,最初は1枚1枚ページを開くのさえ困難でした。キッチンペーパーや圧縮袋を使って乾燥作業を行っていましたが,塩分によるべたつきや異臭などの課題がありました。そんな中,東京文書救援隊の方々に文書復旧システムをご教示頂いた結果,異臭もとれ,紙本来の手触りを取り戻すことが出来るようになり,現場の喜びも一入でした。これらは紙を1枚1枚外して処理できる簿冊タイプのもので作業が無事進みましたが,冊子タイプは処理が難しく今後の課題です。
●献本活動についてお聞かせください。
献本活動では,6月12日から8月26日までの時点でのべ4,000人の方々から,約18万冊の図書の寄贈を頂いています。
頂いた図書は,状態を確認したあと,登録してラベルを貼り,収蔵庫に保管しています。同時に被災地の図書館,小中学校,高校と連絡を取りながら,どのような本がほしいか,そのタイミングはいつが良いかなどのニーズを把握し,送る準備を進めています。最初は分類から登録までのシステムが構築されておらず試行錯誤でしたが,現在は図書館流通センター(TRC)や市民の協力を得て作業がスピーディーに行えるようになりました。
震災直後から,既に被災地への支援物資として本は届いていました。現在でも個人に対する支援は既に多くの団体が取り組んでいますし,図書館への寄贈を申し出る方や団体も多くいらっしゃいます。しかし,本は送ればすぐに図書館で使えるわけではありません。ブッカーやラベル,そして図書の情報が必要となりますが,そこまで支援を行うからには長期的に継続して支援できる体制が不可欠です。被災地の文化と記録の集積地である図書館の復興を支援することで,文化を守り,図書館を利用する住民の方々の支援にもつながると考えています。
全国の図書館からも本を頂戴しておりますが,リサイクルのシールが貼られていたり,汚損図書が混じるなど対応に苦慮するものもあります。被災地の方々やお子さんが手に取るものですので,事前にご相談頂ければ幸いです。寄贈図書と一緒に,献本活動への激励や被災地へのお見舞いなど,様々な思いが綴られた手紙が同封され,作業に携わる者の励みとなっています。
Ref:
http://www.city.tono.iwate.jp/index.cfm/35,18008,162,html
http://toubunq.blogspot.com/2011/08/blog-post_19.html