E1175 – ITHAKA,大学図書館の戦略についての調査報告書を公開(米国)

カレントアウェアネス-E

No.193 2011.05.26

 

 E1175

ITHAKA,大学図書館の戦略についての調査報告書を公開(米国)

 

 2011年4月4日,PorticoやJSTORを運営する米国の非営利団体ITHAKAの調査部門であるITHAKA S+Rが,“Ithaka S+R Library Survey 2010: Insights from U.S. Academic Library Directors”というレポートを発表した。これは,米国の4年制大学の図書館長を対象として2010年秋に行った,大学図書館の戦略に関する調査の結果をまとめたもので,有効回答館数は267館となっている。分析の結果,紙媒体から電子媒体への明確な移行,教育機能の優先といった戦略が共通して見られた。

 今回のレポートでは,ITHAKA S+Rが2009年に大学教員を対象として行った“Faculty Survey 2009”という調査との比較もなされ,図書館長と教員の間にある図書館サービスに関する意識の差について触れられている。

 本文は戦略とリーダーシップ,図書館サービス,蔵書構築という3部構成になっている。主な分析結果は次の通りである。

●戦略とリーダーシップについて

  • 回答館の65%は,サービスや蔵書に対する利用者ニーズに適合する十分な戦略が用意できているとは考えていない。
  • 図書館長たちは,教育・研究活動のサポートを優先していくという戦略を取っており,今後5年間で蔵書構築機能や資料保存機能の優先度は低下していくと予想している。
  • 回答館の55%が予算が増加した場合の用途として電子ジャーナルの購入を挙げているように,予算上の優先順位と戦略の間には相違がある。そのため,図書館長たちの思い描いているような教育・研究活動のサポートを優先するという戦略は完全には実行できない場合がある。

●サービスについて

  • 図書館長たちは,教育・研究活動のサポートが大切なミッションだと捉えており,教員とより距離を縮めて授業をサポートしたいと思っている。しかしながら,“Faculty Survey 2009”によれば図書館にそのような役割を期待している教員は比較的少なく,図書館と教員の間で意識の差が見られる。
  • 図書館長たちは,利用者が資料を探すときに図書館を第一の出発点だと見なしてもらうことが戦略的に重要だと信じている。図書館長たちは,学生も教員も図書館外の情報源に頼ることが増えていることは認識しているが,彼らをサポートするために情報探索用のツールに更なる投資をしたいと考えている。

●蔵書構築について

  • 図書館長たちの予算配分においても,教員たちの図書館に対する意識においても,資料購入という役割が図書館にとって重要であるという点は引き続き同じである。多くの図書館長たちにとって電子ジャーナルは予算上の優先順位が非常に高く,電子資料経費は増加しつづけていき,紙資料についてはその分減少していくと予想している。5年後には実質的に電子ジャーナルへの移行が終わっており,その頃には電子書籍の予算は冊子体図書の半分近くになっているだろうと予測している。
  • 大半の図書館は電子ジャーナルを契約中のタイトルについては冊子体雑誌を除却したり館外施設へ移したりすることで館内スペースを増やしてきており,91%は既にそうしているか,あるいは計画中である。図書については少なくとも今のところは当てはまらないが,回答館の84%が適切な保存とアクセスの環境が整えば雑誌と同様に扱いたいと考えている。

Ref:
http://www.ithaka.org/ithaka-s-r/research/ithaka-s-r-library-survey-2010
http://www.ithaka.org/ithaka-s-r/research/faculty-surveys-2000-2009/faculty-survey-2009