カレントアウェアネス-E
No.193 2011.05.26
E1174
オープンコースウェア誕生から10年
米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)が,大学の授業の動画や講義ノート,試験等をウェブで無料公開する「オープンコースウェア」(OpenCourseWare:OCW)を開始してから,2011年4月で10年を迎えた。OCWは,学位を取るためではなく,知識を広めることを目的として提供されているものである。
2001年4月4日に開始されたMITのOCWで提供される授業の数は,2003年10月には500コース,2005年10月には1,250コースと増加を続け,2007年11月には1,800コースとなり,MITのカリキュラムのほぼ全てがOCWで提供されることとなった。2010年7月には2,000コースに達しており,10年間で世界中から1億回の利用があったとされている。利用者の職業別の構成比を見ると,教員が9%,学生が42%,自己学習者が43%,その他が6%となっている。
OCWは世界各地の大学にも広がっている。OCWコンソーシアムには40以上の国・地域から200以上の大学等が参加しており,14,000以上のOCWのコースが提供されているとのことである。日本においても,2005年からOCWの活動が開始され,2010年1月時点で約1,500のコースが公開されている。
OCW開始当初から関わってきたMITの宮川繁教授は,OCWは,公益のために知識を広めるというMITという組織の責任を反映した活動であり,いまやMITの不可欠な部分となっているとしている。そして,OCWはMITの関係者だけでなく,世界各地で人々の生活を変えるために活用されているとし,起業家が事業に関する知識を得るのにOCWを活用したという事例を紹介している。
MITは,次の10年の目標として10億回の利用を掲げ,OCWのようなオープンな教育資源により世界の教育機会の格差を埋めることを目指すとしている。そのために,まずは教材の質の継続的な向上とウェブサイトの改善を行うとし,それに加え,鍵となる4つの重点分野を示している。それらは,(1) モバイル機器への対応等によりOCWのコンテンツをどこでも利用できるようにする,(2) 多様な文化や背景を持つ人々に対応できるような内容のものとする,(3) OCWに関して人々が交流できるようなオープン学習のコミュニティを作る,(4) 教師に教室で利用してもらうことが利用人数増加につながるため,教師の必要とするツールを提供して支援する,の4つである。
5月4日から6日には,10周年を記念したOCWコンソーシアムのカンファレンスがMITのあるマサチューセッツ州ケンブリッジで開催され,コンピュータ関係の出版社のオライリー・メディア社のCEOオライリー(Tim O’Reilly)氏がOCWとオープンな教育についての基調講演を行ったほか,OCWの歴史や現状,将来についてのパネルディスカッション等が行われた。
Ref:
http://ocw.mit.edu/about/next-decade/
http://ocw.mit.edu/about/next-decade/initiatives/
http://web.mit.edu/newsoffice/2011/ocm-reflections-carson.html
http://www.jocw.jp/AboutJOCW_j.htm
http://web.mit.edu/fnl/volume/231/miyagawa.html
http://conferences.ocwconsortium.org/index.php/2011/cambridge/search/schedConfs
http://education-portal.com/articles/Live_from_the_OpenCourseWare_Consortium_Conference_Day_1.html
http://education-portal.com/articles/Day_2_at_the_OpenCourseWare_Consortium_Conference_on_Free_Education.html
http://education-portal.com/articles/Final_Round-Up_of_the_OpenCourseWare_Consortium_Conference.html