カレントアウェアネス-E
No.193 2011.05.26
E1173
特殊コレクションの迅速なデジタル化の事例紹介(米国)
2011年5月3日に,米国OCLCが『すばやいデジタル化: 特殊コレクションデジタル化の迅速な処理について』(Rapid Capture: Faster Throughput in Digitization of Special Collections)と題するレポートを刊行した。このレポートは,非図書資料のデジタル化作業の簡素化・合理化の方法を紹介することを目的として,米国の大学等におけるデジタル化の事例を解説したものである。OCLCはこれらのケースを参考に,読者の所属するそれぞれの館でデジタル化の規模拡大に役立て,ひいては特殊コレクションへのアクセス増大につなげてほしいとしている。以下では紹介されている9つの機関のうち,4機関を取り上げる。
●スミソニアン協会
スミソニアン協会のアメリカンアートアーカイブズでは,手稿資料や写真,スケッチブック,日記,絵葉書等のオリジナル資料あるいはマイクロフィルムから,大規模なデジタル化を進めている。1日当たり最大500点のデジタル画像が作成され,これまでに累計150万点を超す画像が作成されている。同アーカイブズでは2010年末にデジタル化設備を更新したことで,それまで300dpiのグレースケールの画像1コマを撮影するのに7秒から10秒かかっていたものが,カラー画像でも1秒程度の作成時間に短縮されたという。
●インディアナ大学
インディアナ大学の所蔵する伝統音楽アーカイブズのデジタル化においては,自動化と迅速化,そして正確な媒体変換方法の開発に向けた研究が進められている。カセットテープに録音されたオーディオ資料については,3つのカセットデッキを使用してデジタル化を並行して行っており,1日に24時間分のカセットテープがデジタル化されている。仮に一本のカセットテープに問題があれば作業を止めて調査する必要があるため,カセットテープの選別作業に慎重さが求められることが課題として挙げられている。
●米国議会図書館(LC)
LCでは,世界恐慌後に農村の様子を撮影した,農業安定局の23,000点のネガフィルム(35ミリ)のデジタル化を外部委託して実施している。デジタル化の作業スタッフは3名で,1日に約500点がデジタル化されている。デジタル化作業の実施初期段階は,技術的な仕様の確認等が要求されることから,作業の中で最も時間が掛かるものとなっている。また,フィルムの保存状態やコレクションの目録と原資料との間の不一致等で課題があるとしている。
●カリフォルニア大学ロサンゼルス校
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の所蔵する,1920年代から現代までの映画のスチール写真のコレクションには多くの利用がある。だが,同校の敷地外に保管されているため,デジタル化はコレクションへのアクセスの機会を増やすことにつながるものとして進められている。1日あたり約400点の画像が撮影され,画像の解像度は300ppiから2,400ppiである。低解像度で撮影すれば,1時間当たり最大165点の画像の作成が可能である。デジタル化における課題としては,器材の設置や研修,新しいソフトウェアへの習熟期間のため,作業の初期段階で時間がかかることが指摘されている。また,写真が古く保存状態が悪いものがあること,表面に光沢のある写真は光が反射してデジタル化した画像に写り込みが発生すること等も課題として挙げられている。
レポートでは上記の他にも,カリフォルニア大学バークレー校やノース・カロライナ大学,ウォルターズ美術館等の事例を紹介している。
Ref:
http://www.oclc.org/research/news/2011-05-03.htm
http://www.oclc.org/research/publications/library/2011/2011-04.pdf