E1172 – 被災県図書館の資料救済要望等に関する現地調査<報告>

カレントアウェアネス-E

No.193 2011.05.26

 

 E1172

被災県図書館の資料救済要望等に関する現地調査<報告>

 

 2011年5月9日から11日にかけて,国立国会図書館資料保存課職員2名が岩手県立図書館,岩手県釜石市立図書館,同県野田村立図書館,宮城県図書館及び福島県立図書館を訪問し,東日本大震災による被害状況及び被災資料の救済要望に関する聞き取り調査を行った。

●各県図書館の被害状況

 宮城県図書館ではガラスの破損,壁のはく落等の建物被害,資料の落下による被害等があった。資料廃棄の判断基準,資料補修の研修,資料落下防止策等の課題が確認された。同館は5月13日から再開した。

 宮城県内では津波によって南三陸町図書館が壊滅し,所蔵資料も失われた。今後,広範囲に流出した蔵書の回収・救済から,図書館の再建・経営に至るまでの総合的な支援が求められる。また,内陸部で地震被害にあった他の市立図書館では,書架不足による復旧作業の遅れなどがあり,再開への影響が懸念されるとのことであった。

 岩手県立図書館では大きな被害はなかった。同館が行った県内図書館の被災状況調査によれば,壊滅的被害を受けたのは陸前高田市立図書館,大槌町立図書館及び野田村立図書館である。特に陸前高田市立図書館は人的・物的両面で甚大な被害を受け,図書館機能が消失した。県立図書館としては市町村の復旧過程を注視しつつ,各段階での図書館復旧支援のあり方を考えたいとのことである。また,他には今後の復興過程で必要とされるであろうビジネス支援のための研修,被災資料の補修研修への講師派遣等に対する要望も出された。

 釜石市立図書館では,建物には大きな被害はなかったが,暖房機のラジエーターから不凍液が漏れ,郷土資料の水損事故が起きた。救出・乾燥作業が行われたが,一部に不凍液による着色,文字等のにじみ,カビ等の問題が発生している。なお,同館は4月22日から開館している。

 岩手県北東部北上山地沿岸部に所在する野田村立図書館では,津波による甚大な被害を受け,膨大な被災資料が残された。現在,郷土資料等保存すべき資料を選別して乾燥やカビ除去など手当てを行い,再入手等が可能な一般資料については廃棄作業が進められている。

 福島県立図書館では建物に甚大な被害を受けたが,2011年7月中旬に児童室を中心として部分開館する予定である。段階的にサービスを再開し,全面開館は秋以降の見込みとのことである。福島県内では他に郡山市中央図書館,棚倉町立図書館で地震の被害が大きく,新地町図書館は津波に襲われたものの,建物の2階のため被害はなかった。大熊町,浪江町,双葉町,富岡町の図書館は福島第一原子力発電所から30km圏内のため閉館中である。

●被災資料救済に関する考察

 釜石市立図書館と野田村立図書館に共通するのは,大量の被災資料に比して担当者が少なく,復旧作業に多くの時間,労力を割くことが困難な状況にあることである。今回のような大被害が発生した場合,すべての所蔵資料を等しく救済することは不可能であり,郷土資料等,その図書館のみが所蔵する特色ある資料を優先して乾燥・カビ除去等の救済作業を行うことは止むを得ない。また,複製等による代替,購入,寄贈等による再入手が可能な資料は廃棄を視野に入れて対策を検討し,優先的に救助した資料についてもどこまで原状復帰するのが適切かを図書館員が判断することが重要となろう。

●今後の復興に向けて

 今回の地震と津波による被害は甚大であり,被災地の図書館に対しては,資料の救済・修理,文献提供,レファレンス,研修等の個別の復旧支援作業から図書館の再建・復興まで,総合的かつ長期的な支援を行うことが必要である。そのためには,支援する側は,被災地と綿密な意思疎通を行うことによって,要望を的確に汲み取り,求められる支援を適切に提供することが重要であろう。なお,支援を行う側は,時期や要望に合わない支援が却って現地の負担になることに留意する必要もあるだろう。幸いにも,これまでに培われた図書館ネットワークを基盤として,市町村,県,国の図書館間の協力体制が大災害下にあっても機能しており,今後の復興の大きな力となり得ると期待される。

(収集書誌部資料保存課・中島尚子)