カレントアウェアネス-E
No.190 2011.03.17
E1158
地域の課題解決のため図書館と自治体が協力するには(米国)
地方自治体行政に関する提言等を行っている米国の団体ICMA(International City/County Management Association)が,「公共図書館の能力を最大限に発揮させる」(Maximize the Potential of Your Public Library)という報告書を2011年2月に公表した。ICMAからの資金提供を基に実施された,公共図書館が地元の自治体等と連携・協力して地域の課題解決に当たるというプログラムの成果をまとめたもので,9つの自治体での取組みの概要と,そこから得られた教訓がまとめられている。
報告書の冒頭の「なぜ図書館か」という部分では,地域の課題の解決に不可欠となる住民とのコミュニケーションにおいて図書館ほど適した機関はないと指摘し,図書館は従来の役割のみにとどまるのではなく,図書館に対する住民の信頼を活用し,より幅広い役割を果たすことができるとしている。そして,図書館は自治体の戦略計画を理解しその実現を支援するための働きをしなければならないとしている。
プログラムでは,自治体と図書館のそれぞれのリーダーを結びつけることに重点が置かれ,報告書でも,両者の強固な関係が重要であると繰り返し指摘している。ただ,そうした協力関係はすぐに築けるものではなく,パートナーシップの支えとなる信頼と理解のためには,何度も交流を重ねなければならないとしている。その他にも,役割やタスクの明確化,定期的な顔合わせ,成功の共有,互いの努力の支援,橋渡し役の人物の必要性等が挙げられている。
9つの自治体では,学習支援やリテラシー向上,若年犯罪者の再犯防止,街の安全,災害対策,環境問題,経済発展,文化の多様性などの課題について,図書館と公的機関が連携した取組みが行われた。ヴァージニア州フェアファクスでは,若年犯罪者の再犯防止のため裁判所・矯正施設と図書館が提携して読書プログラム等を実施し,再犯率が下がったとされている。また,アイオワ州アイオワシティでは,環境問題に関する情報等が住民に提供され,電気製品のリサイクルや不要薬品の安全な処理等に成果があったとされている。
結論部分では,自治体と図書館のそれぞれのリーダーに向けた提言が示されている。自治体のリーダーには,図書館を課題解決のため活用できる資源であると考えること,図書館のリーダーを自治体の経営会議のメンバーに含めること,図書館を訪れること等を提言している。図書館のリーダーに対する提言としては,図書館の建物や資料にとらわれず地域の課題解決のため図書館が役立つ方法を探ること,積極的に自治体職員と関係を作ること,図書館は安全でニュートラルな場所であるというイメージを保持すること等が挙げられている。
Ref:
http://icma.org/en/icma/newsroom/highlights/Article/101001/Maximize_the_Potential_of_Your_Public_Library
http://icma.org/en/icma/knowledge_network/documents/kn/Document/302161/Maximize_the_Potential_of_Your_Public_Library