E1120 – 北米の大学・研究図書館の特殊コレクションに関するレポート

カレントアウェアネス-E

No.183 2010.11.18

 

 E1120

北米の大学・研究図書館の特殊コレクションに関するレポート

 

 2010年10月,OCLCの研究部門であるOCLC Researchは,北米研究図書館協会(ARL)やカナダ研究図書館協会(CARL)等に参加している米国及びカナダの大学・研究図書館を対象に2009年に実施した,特殊コレクションとアーカイブズの現状に関する調査の結果をまとめたレポート“Taking Our Pulse: The OCLC Research Survey of Special Collections and Archives”を公表した。レポートは,169館から得られた回答を基に,1998年にARLが行った調査の結果との比較を交えて構成されている。

 「特殊コレクション」は,唯一性や希少性等があり,機関として長期的に保存する責務があるような資料群と定義されている。貴重書や写本,機関の文書といった資料が該当し,デジタル形式の資料も含まれる。ただし,出版されている視聴覚資料や重点的に収集されている分野の資料といった,フォーマットや主題による特殊性を持つだけの資料は除外されている。

 レポートに掲載されている主な調査結果は,以下の通りである。

  • 3分の2の館が特殊コレクションを個別のスペースに収蔵しているが,対象資料が1998年と比べて劇的に増加していることもあり,105館がスペースの確保を取り組むべき課題として挙げている。
  • 60%以上の館が,教職員,学部生,来館利用の研究者などによる特殊コレクションの利用が過去10年間で増加したと回答しているが,半分近くの館はその内訳を把握していない。
  • 大部分の館が特殊コレクションの利用に際してデジタルカメラの使用を認めており,90%の館が目録に登録されていない資料の利用を許可している。また,3分の1以上の館が,図書館相互貸借(ILL)による特殊コレクションの現物貸借にも対応している。
  • 印刷媒体の85%,記録史料の50%,地図資料の42%がOPACに登録されており,1998年調査時よりも,それぞれ12%増,15%増,6%増である。
  • ほぼ全ての館に,完了済か,あるいは実施中の状態にある特殊コレクションのデジタル化プロジェクトがある。また,3分の1の館は,コレクション全体を対象にした大規模なデジタル化を実施している。
  • 4分の1の館が,商業ベンダーと提携して資料をデジタル化し,アクセスを有料で提供している。
  • ボーンデジタルの資料を収集・管理する基礎的なインフラの不足が見られる。その原因として3分の2の館が資金の不足を挙げ,半数以上の館が技術知識と時間の不足を挙げている。
  • スタッフへの教育・訓練が必要と考えられている分野として,ボーンデジタルの資料(83%)や情報技術(65%),知的財産(56%),目録・メタ データ(51%)などがある。
  •  レポートでは,調査結果を踏まえて,推奨されるアクションも提案されている。例えば,地図や図版といった,目録作業が難しい出版物のメタデータを作成するための共有環境を築くことや,大規模なデジタル化のモデルを構築すること,特殊コレクションとして管理するボーンデジタルの資料の基準を明確にすること,などが挙げられている。

    Ref:
    http://www.oclc.org/research/publications/library/2010/2010-11.pdf
    http://www.arl.org/bm~doc/spec_colls_in_arl.pdf
    http://www.oclc.org/research/news/2010-11-09a.htm