E1119 – 英国出版社協会が図書館による電子書籍貸出の基本方針を公表

カレントアウェアネス-E

No.183 2010.11.18

 

 E1119

英国出版社協会が図書館による電子書籍貸出の基本方針を公表

 

 2010年10月21日,英国の出版社協会(Publishers Association:PA)が,英国の図書館・情報専門家協会(CILIP)のカンファレンスの場で,公共図書館による電子書籍の貸出に関する出版社側の基本方針を発表した。英国のBookseller誌には,その基本方針を発表したFaber社のCEOペイジ(Stephen Page)氏の講演内容の全文を掲載している。

 ペイジ氏はまず講演の前半で,電子書籍の売り上げが伸びていること,デジタル形式の登場によって出版活動が多様化していることを説明し,出版社は図書館との協力関係を模索していると述べている。これを踏まえた上でペイジ氏は,図書館による電子書籍の無料・無制限の貸出を認めることは,電子書籍の市場全体を損なうことにつながるものであるとして,それは著作者も出版社も受け入れられないと主張している。「いつでもどこでも望む時に無料の電子書籍を」という一部の図書館がすでに行っている電子書籍の貸出モデルの下では,いったい誰が電子書籍を買おうとするのかと批判的に問いただしている。

 そして,図書館長の会(Society of Chief Librarians),読書協会(Reading Agency),博物館・図書館・文書館国家評議会(MLA)との協議を経て作成された,PA加盟団体の共通基本方針として,ペイジ氏は次の4点を発表した。

(1) 図書館の資料購入により得る権利は,一つの資料をある一定期間にある個人に対して貸し出す権利である。

(2) 地理的空間に基づくしっかりとした利用者区分が図書館の全てのサービスには必要であり,正規利用者にはその地域に住んでいるかどうかの確認を行い,地域外からの利用者に応じるためには一時利用の規定を設けるようにする。

(3) 電子書籍のダウンロードができるのは図書館の建物内に限定し,利用者が電子書籍を借りるためには,図書館まで来る必要があるようにする。

(4) 利用者がダウンロードした電子書籍は一定の貸出期間(例えば2週間)が過ぎると読めなくなるようにする。

 なお,ペイジ氏は,上記の基本方針は最大限厳しくした場合のものであって,すべての出版社が上記の基準で行動するわけではないと述べている。

 10月26日付けのGuardian紙には,このPAの発表した基本方針に対するCILIPの最高責任者モーガー(Annie Mauger)氏のコメントが掲載されている。モーガー氏は,出版社のビジネスニーズは理解できるものの,我々が図書館は現代の最先端の場所であると述べ,市民に対してできる限り多くの図書館の利用方法を提供しようとしている現状にあっては,出版社の主張はその動きを逆行させるものであるとコメントし,PAの発表は必要な議論の「第一歩」であるが,これから先の議論には「長い道のり」があると述べている。

Ref:
http://www.thebookseller.com/news/132038-pa-sets-out-restrictions-on-library-e-book-lending.html
http://www.guardian.co.uk/books/2010/oct/26/libraries-ebook-restrictions
http://www.nytimes.com/external/readwriteweb/2010/11/10/10readwriteweb-will-your-local-library-lend-e-books-or-can-3532.html