E1039 – 情報技術の進展に図書館はどう適応していくのか(米国)

カレントアウェアネス-E

No.169 2010.04.14

 

 E1039

情報技術の進展に図書館はどう適応していくのか(米国)

 

 米国図書館協会(ALA)の情報技術政策局(OITP)が,2008~2009年に行った図書館の将来についての文献レビューに基づく,情報技術の進展と図書館への影響に関するレポート“Checking Out the Future”を公表している。

 レポートは,「生き残るのは,最も力の強い種でも,最も知性的な種でもなく,変化に最も敏感な種である」というダーウィンの言葉から始まり,「技術が従来の情報形態を変える」「デジタル化が情報のアクセスと利用の景観を変える」「新しい情報プロセスが図書館,図書館サービス,図書館員を変えていく」「未来はコラボレーションである」という4つのセクションに分けられている。

 技術が進展し,資料のデジタル化やボーン・デジタル資料の登場など,電子的な情報形態が増加するにつれて,図書館が提供する書籍や論文,新聞といった従来型の印刷形態は,研究や教育といった公共領域におけるスタンダードでなくなっているという。

 技術の進展による,印刷から電子的な情報形態への移行が,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やコンピューターゲームと共に育ったデジタルネイティブらを中心に,人々が行う情報の生成,アクセス,処理の方法に変化を与えているとレポートでは指摘されている。それに伴って,マルチメディア情報による「発見ベース」の学習が主流になると,リテラシーには様々な要素が含まれるようになっていくという。読むことの将来(future of reading)について書かれた,ニューヨークタイムズ紙の連載記事(CA1692参照)を例にして,こういった変化の中で,図書館が教育の中心としてあり続けるには,新しい世代のニーズに応えられるようにリテラシーサービスを進化させる必要があるとしている。

 図書館は物理的なスペースと電子的なスペースとの融合体(amalgam)のようになるとの予想も示されている。技術の進展による影響については,図書館のサービスやスペースは変化し,究極的には物理的な図書館が姿を消すという意見があるものの,館内の書籍や書架,机,コミュニティスペースへのニーズは存在し続けるとしている。それを示す例として,オンラインでの公共図書館へのアクセスが,物理的な図書館に来館するきっかけを利用者に与えている,という米国の博物館・図書館サービス機構(IMLS)の全国調査(E768参照)の結果が紹介されている。

 将来の図書館及び図書館員には,多種多様な機関,組織,個人利用者とのコラボレーションが必要になるとレポートでは予想されている。中でも最も重要なのは利用者とのコラボレーションで,それによって,技術の適用や図書館サービス,物理的・電子的な図書館スペースのデザインなどを発展させることになるとしている。

 レポートの結論部分では,技術の進展によって,人々による情報の生成,発見,処理の方法が大きく変化しており,図書館も哲学やミッション,業務プロセスを進化させていかなければならないと述べられている。そして,印刷から電子へと移行して,図書館の性質や図書館員の仕事が変化したとしても,図書館が提供するサービスと図書館員のナビゲーターとしての役割は変わらず残り続けるとしている。

Ref:
http://www.ala.org/ala/aboutala/offices/oitp/publications/policybriefs/ala_checking_out_the.pdf
http://www.wo.ala.org/districtdispatch/?p=4542
CA1692
E768