Microsoft Academic Graph(MAG)の約30年分の定量的なデータに基づくオンラインプレプリントサービス発展の軌跡(文献紹介)

プレプリントサーバarXivに2021年2月17日付で、Microsoft社の基礎研究部門Microsoft Researchの研究者3人の共著による文献“Is preprint the future of science? A thirty year journey of online preprint services”が公開されています。

同文献はarXivがサービスを開始した1991年から2020年までを対象に、Microsoft社の書誌情報データMicrosoft Academic Graph(MAG)に基づいて、プレプリントサービスの経時的な発展の概要を報告する内容です。主に次のようなことを指摘しています。

・1991年の1年間に公開されたプレプリント文献の数は3,000件程度であったが、2019年には約22万7,000件、2020年には最初の9か月だけで約19万2,000件と急増している。しかしそれでもなお、全学術文献に占めるプレプリント文献の割合は2020年時点で6%程度である。

・プレプリント文献の公開日と査読を経て雑誌論文として公開される日を比較すると、平均して14か月の開きがあり、特に経済学分野ではプレプリント文献の早期アクセスの恩恵が大きい。

・プレプリント版の存在する論文の被引用数は、プレプリント版の存在しない論文の被引用数の約5倍である。

・MAGに収録された約280万件のプレプリント文献のうち41%の文献は、最終的に査読を経て学術雑誌等で出版されている。

・公衆衛生上の緊急事態において研究成果の迅速なオープンアクセス(OA)化に貢献している。新型コロナウイルス感染症に関連する論文の37.5%がプレプリントとして公開されており、毎週250件程度の新規投稿がある。

結論として、観察データに基づいて示された研究の結果は、プレプリントサービスの研究者・研究コミュニティに対する良好な影響関係を示しており、研究成果の迅速な普及手段として効果的に活用するための情報源として役立てることができる、としています。

Xie, Boya; Shen, Zhihong; Wang, Kuansan. Is preprint the future of science? A thirty year journey of online preprint services.
https://arxiv.org/abs/2102.09066
https://arxiv.org/abs/2102.09066.pdf
※二つ目のリンクが文献のフルテキストです。[PDF:12ページ]

参考:
E1987 – 第2回SPARC Japanセミナー2017<報告>
カレントアウェアネス-E No.340 2018.01.25
https://current.ndl.go.jp/e1987

E2255 – 分散型のオープンな出版フレームワーク“Pubfair”
カレントアウェアネス-E No.390 2020.05.14
https://current.ndl.go.jp/e2255

【イベント】第2回SPARC Japanセミナー2020「プレプリントは学術情報流通の多様性をどこまで実現できるのか?」(12/18・オンライン)
Posted 2020年11月20日
https://current.ndl.go.jp/node/42586