2021年2月4日付で、学術情報流通に関連した多様な話題を提供する学術出版協会(Society for Scholarly Publishing:SSP)運営のブログ“The Scholarly Kitchen”に、ドイツのミュンヘンに所在するルートヴィヒ・マクシミリアン大学の研究員Anna Abalkina氏が執筆した記事“Guest Post — Unethical Practices in Research and Publishing: Evidence from Russia”が掲載されています。
同記事は複数のオンライン情報源を用いて、近年のロシアで展開される大規模な研究不正行為の実情を報告するものです。ロシアでは、国際的な索引データベースに収録された学術雑誌上での論文掲載や引用に関する定量的な指標を含んだ、研究評価のための新しい全国基準が約10年前に導入され、各大学は新基準に関連して教員に昇任や奨励金等のインセンティブを設けるようになりました。このことはロシアの研究成果が国際的な舞台で発表される機会を増進した反面、特に社会科学・人文学・医学分野において研究不正行為の呼び水になっているとAbalkina氏は指摘します。
Abalkina氏は確認される研究不正行為の実態として、ロシアの研究者が2018年に約5,000本、2019年に約4,300本の論文をハゲタカジャーナルに発表していると試算されること、論文の共著者枠を売買するビジネス「ペーパー・ミル」を利用して過去5年間に4,000本以上の論文について不正に著者となっている疑いがあること、発表済の外国語論文をロシア語訳し自身の原著論文として発表する剽窃行為に1,100人以上が関与しているとロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences:RAS)が2020年8月付の報告書で言及していること、などを報告しています。
Abalkina氏は、ロシアでは明白に大規模な研究不正行為が横行しているとする一方で、これは定期的な研究不正に関する調査があったために明らかとなったことであり、ロシア特有の問題とみなすべきではないことなどを指摘しています。
Guest Post — Unethical Practices in Research and Publishing: Evidence from Russia(The Scholarly Kitchen,2021/2/4)
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2021/02/04/guest-post-unethical-practices-in-research-and-publishing-evidence-from-russia/
参考:
CA1960 – ハゲタカジャーナル問題 : 大学図書館員の視点から / 千葉 浩之
カレントアウェアネス No.341 2019年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1960
文部科学省、「諸外国の研究公正の推進に関する調査・分析業務」(平成30年度科学技術調査資料作成委託事業)の成果報告書を公表
Posted 2019年7月24日
https://current.ndl.go.jp/node/31217
インド大学助成委員会、剽窃に関し文章の類似度に応じた罰則規定を導入(記事紹介)
Posted 2018年4月17日
https://current.ndl.go.jp/node/35857
SAGE社の出版する雑誌で60本の論文撤回 1人の著者が複数の別名を使って自分の投稿論文を自分で査読
Posted 2014年7月15日
https://current.ndl.go.jp/node/26582