失われた文学遺産を救出する:オーストラリアの絶版書電子化プロジェクト(記事紹介)

オーストラリア・メルボルン大学のマルチメディアプラットフォーム“Pursuit”において、2020年11月22日付けで絶版書電子化プロジェクトに関する記事“Rescuing Australia’s lost literary treasures”が公開されています。筆者はオーストラリア・メルボルン大学の准教授ギブリン(Rebecca Giblin)氏です。

本記事で紹介されている絶版書電子化プロジェクト“Untapped: the Australian Literary Heritage Project”は、ギブリン氏が率いる研究者チームと、オーストラリア作家協会、オーストラリアの公共図書館が連携して実施するものであり、2020年11月に立ち上げられました。図書館コレクションの専門家チームとの協力により文化的に重要な絶版書をリスト化した上で、それらを電子書籍化し、販売や図書館でのデジタル貸出を行うという内容です。

絶版書のためのマーケットを用意し作家の収入を改善することも意図したプロジェクトであり、作家側は電子書籍の販売や貸出に伴う収益を受け取ります。記事によれば、オーストラリアでは作家が執筆活動から得る収入は年々減少しており、最新の数字では一年当たり平均1万2,900オーストラリアドルの収入とあります。

また、研究チーム側では、電子書籍の売上額と図書館での貸出回数のデータを得られるようにプロジェクト設計を行っており、両者の関係の調査も目的の一つとなっています。図書館側では、貸出し対象となる絶版書の宣伝を様々な手法で行い認知度向上を図ることとなっており、プロジェクトを通じて、図書館による本の宣伝がもたらす経済的価値、そして図書館での貸出が電子書籍の売上額に及ぼす影響のより良い理解が可能になるとしています。調査の結果は出版社や図書館にフィードバックし、オーストラリアの作家・文芸文化への支援方法に関する公共政策の議論に寄与したいと述べています。

Rescuing Australia’s lost literary treasures(Pursuit, 2020/11/22)
https://pursuit.unimelb.edu.au/articles/rescuing-australia-s-lost-literary-treasures

Untapped: the Australian Literary Heritage Project(University of Melbourne)
https://law.unimelb.edu.au/centres/ipria/research/research-projects/untapped-literary-heritage-project

参考:
E2279 – オーストラリアの公共図書館は電子書籍をどう選んでいるか
カレントアウェアネス-E No.394 2020.07.09
https://current.ndl.go.jp/e2279

CA1978 – 動向レビュー:米国での電子書籍貸出をめぐる議論 / 井上靖代
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1978

CA1979 – 動向レビュー:欧州の図書館と電子書籍-従来の公共図書館よ、安らかに眠れ? / ベンジャミン・ワイト,井上靖代(翻訳)
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1979