遠隔医療受診のための施設としての地方の公共図書館の可能性:米バージニア大学(UVA)に所属する看護学研究者の研究から(記事紹介)

米・バージニア大学(UVA)は、2020年8月19日付のお知らせで、同大学の看護学研究者であるデグズマン(Pamela DeGuzman)准教授が2020年7月に公衆衛生看護学分野の査読誌“Public Health Nursing”に発表した論文の内容を紹介しています。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、インターネットを介してリアルタイムで医療者からの診療を受ける遠隔医療(telemedicine)の重要性が高まっていますが、自宅におけるブロードバンドインターネット環境の整備の遅れた地方では、十分に遠隔医療を受診できない状況にあります。そのような中、デグズマン准教授は、利用者向けにブロードバンドインターネット環境を提供することが一般的な公共図書館について、遠隔医療受診のための施設として役割を十分に果たすことができるか検証する研究を行いました。

デグズマン准教授は、バージニア州内の公共図書館に対して遠隔医療を支援する環境の整備状況に関するアンケート調査を実施しました。アンケート調査の結果として、回答館39館のうちの85%以上が、固定回線によるブロードバンドインターネット環境、少なくとも4台のコンピューター端末、利用者の技術支援を行うためのスタッフ、プライバシーを厳守可能な個室環境、という遠隔医療受診のために求められる4要素を備えていることを報告しています。なお、回答館の所在地が都心か地方かによって、回答に有意差はなかった、としています。

バージニア州では、地方の住民の約3分の1が自宅にブロードバンドインターネット環境を持っておらず約13%の住民は全くインターネットへアクセスできない状況にある一方、大多数が最寄りの公共図書館へ車で30分以内に来館できるという状況にあります。デグズマン准教授は、この州の状況とアンケート調査の結果を踏まえて、同州の公共図書館は感染症による休館から再開するにあたって、住民へ医療者へのアクセスを提供する施設としての役割を評価しなければならないと主張しており、遠隔医療が州でより一層普及するように、現在図書館と医療関係者との間の協力関係の評価や指針となるガイドラインの開発を進めています。

Check Out Telemedicine’s Next Frontier: Local Libraries(UVA Today,2020/8/19)
https://news.virginia.edu/content/check-out-telemedicines-next-frontier-local-libraries

関連:
DeGuzman, Pamela B.; Siegfried, Zack; Leimkuhler, Megan E. Evaluation of rural public libraries to address telemedicine inequities. Public Health Nursing. 2020.
https://doi.org/10.1111/phn.12777

参考:
E1874 – デジタル包摂社会と公共図書館の課題(米国)<文献紹介>
カレントアウェアネス-E No.317 2016.12.22
https://current.ndl.go.jp/e1874

図書館の将来像は、コミュニティを支援する拠点:オーストラリア・ニュージーランドの図書館長等への調査
Posted 2016年10月31日
https://current.ndl.go.jp/node/32846

Wi-Fiホットスポットを備えた移動図書館を活用して地域にインターネットアクセスを提供する米国の図書館(記事紹介)
Posted 2020年4月23日
https://current.ndl.go.jp/node/40839

感染症流行下での図書館によるコミュニティ支援(記事紹介)
Posted 2020年6月1日
https://current.ndl.go.jp/node/41103