カレントアウェアネス
No.185 1995.01.20
CA983
パソコン通信を活用した図書館事業
1994年の9月20日,大手の商用パソコン通信サービスNifty-Serveの生涯学習フォーラム(FLREAN)内に,「フォーラムinフォーラム」として,図書館フォーラムが開設された。
「フォーラム」というのは,共通の関心を持つNifty-Serveの会員が,グループ活動を展開できる公開の場の名前である。それぞれのフォーラムには,会員が,意見・情報を交換する会議室や,文書・データ・プログラムなどを公開するデータ・ライブラリなどが備わっている。
Nifty-Serve内では,「ホーム・パーティー」で図書館員同士の意見・情報の交換,交流をしているグループが既にいくつか存在する。「ホーム・パーティー」は,他の参加者から紹介を受けなければ存在がわからず,Passwordが必要であるなど,「フォーラム」に比して閉じた場である。また,データ・ライブラリがないなど,機能の限定が大きい。筆者も紹介を頂いてそうしたホーム・パーティーの末席に連なりながら,図書館を話題にしたフォーラムを運営できないかと考えるようになったところ,ちょうど生涯教育フォーラム内で進行中の図書館フォーラム準備会議を紹介され,運営スタッフに名を連ねることとなった。
Nifty-Serveの会員に対して公開された場であるため,図書館フォーラムの参加者は図書館員に限定されず,学生・社会人などの図書館利用者,行政関係者,図書館関係学科の教員,図書館就職希望の学生などに広がっている。
フォーラムの参加者全体の人数に関しては,確かなことはわからないが,現在のところ,1日平均10件近くの書き込みがあり,11月5日から12月31日までの間は,図書館とInternetとのかかわりをテーマに,臨時会議室を開設した。
パソコン通信を活用した図書館事業としては,以下のものが考えられる。
- 外部データベースなど,パソコン通信を通じて提供される情報サービスを業務に利用する。
- 意見情報の交換―図書館員同士,あるいは外部の人を交えての意見交換が可能。
- 広報活動―利用案内の掲載,サービス体制の変更,行事など情報提供,展示会,会議等の案内など。
- 連絡事務用,共同事業の推進―各種委員会の日程調整,議案の事前送付,会議の予稿提出・配布:遠隔地の委員が出張しなくとも,かなりの程度まで議論を進めることが可能。現在,文字情報中心で図が送りにくいが,標準的な取扱いの確立,関連機器の普及などにより次第に解決されよう。
- データやコンピュータ・プログラムの配布,書誌情報の提供など:既に府中市立図書館や鹿児島県立図書館などで,パソコン通信による目録情報の提供を行っている。都立中央図書館では,相互貸借の受付にパソコン通信を利用している。また,日本盲人社会福祉協議会点字図書館部会の運営する「てんやく広場」は,パソコン通信によって,点訳・録音図書目録の提供,点訳データの電子的蓄積,共有,頒布事業を展開している。
パソコン通信で遠隔地のシステムを利用する場合,通信経費の負担が大きいことが問題になる。大手のパソコン通信会社は,全国各地にノードを持ち,大部分の地域から市内通話料+毎分10円程度の使用料で利用できる。また,自前のホスト局を運用する場合は,Tri-Pのような通信回線提供業者のサービスを利用することで,通信費用の軽減がはかれる。
最近何かと話題にのぼるInternetであるが,パソコン通信と図書館業務への活用という立場から比較すると,次のようなことになるであろう。
Internetでは,パソコン通信で可能なことは全て可能である。Internetから利用できる情報サービスはパソコン通信以上に多数あり,これからも増え続けるであろう。意見・情報の交換には電子メール,メイリング・リストを利用すればよい。ソフトウェア,データ類の頒布はFTPサイトを運用することで実現する。広報活動にはgopherやWWWのサービスを構築すればよい。情報検索サービスの提供はtelnetで行うことができる。
しかし,Internetにも弱点がある。職場や学校などでアカウントの得られない個人に対するサービスという点では,現在のところパソコン通信が有利である。また,上記の事業のうちには,常時専用回線で接続するホスト・マシンを運用する必要があるものが含まれる。このための回線使用料や,機器運用の負担を考えると,Internetが小規模の図書館や学校まで急速に普及するとは考えにくい。
また,大手パソコン通信各社は,最近Internetと相互接続し,Internetで提供されるサービスがパソコン通信から利用できるようになってきている。
近年,パソコンのオフィス,学校,家庭への普及はめざましい。パソコン通信は図書館サービス展開のメディアとして,有効性を高めている。図書館界がこうした方向に対応して行くためには,各館がパソコンを業務で活用していくためのノウハウを交換しあう場の形成や,各館のサービスを通覧できるダイレクトリーの作成などによって,基盤の整備を計る必要がある。
兎内勇津流(とないゆづる)
Ref:「てんやく広場」(’94 JLA鳥取大会第8分科会配布資料),他。