カレントアウェアネス
No.173 1994.01.20
CA921
タイにおける図書館ネットワークの発展−リソース・シェアリングの追求−
タイでは1970年代の経済的困難の時代に,多くの図書館がリソース・シェアリングの必要性を認識し,図書館間貸出・分担目録作業・共同収集のために,図書総合目録や逐次刊行物総合目録などの書誌を整備した。1990年代に入るとネットワーク化の動きは具体的になった。チュラロンコーン大学医学図書館はタイ医学索引データベースをオンラインで一般に提供し,マヒドン大学のシリラート医学図書館はCD-ROMネットワークを開設した。チェンマイ大学図書館ではOPACへの遠隔地からのアクセスが可能になった。
図書館ネットワークの実際の運営には,遠隔通信網の整備と,書誌データベースの標準化が必要である。しかし,この標準化に関してはさまざまな議論にもかかわらず,いまだに合意はできていない。多くの書誌情報が電算化され,データの交換や相互利用を促進する条件は整いつつあるにもかかわらず,標準化の欠如がその実現を難しくしている。例えば,チュラロンコーン大学は新しい学内図書館ネットワーク“Chulalinet”のデータベースにCU (Chulalon-gkorn University) MARCを使用し,一方他の図書館は異なるMARC形式を採用している。国立電子電算技術センター(NECTEC)による,全国図書館ネットワーク実現のためのデータベース形成の推進も,使用ソフト・MARC形式・データの互換方法を統一しなかったため,多くの無駄を生んでいる。しかし,一方で導入される外国製総合図書館システムの大部分がUS-MARCに対応し,データベースもUS-MARC 形式で蓄積されることで,実質的な標準化が進んでいる。また標準件名標目表やシソーラスの製作,タイ語名の団体記入の標準規則の作成を行っている機関もある。
タイの図書館ネットワーク化の先駆者であるチェンマイ大学図書館は,タイで初めて総合システムを導入し,地方大学と共に「Pulinet (地方大学図書館ネットワーク)」を作った。マヒドン大学図書館はキャンパスが分散していることから,リソース・シェアリングに早くから取り組んでいる。他にも科学技術環境省(MOSTE)所管の7図書館,技術情報アクセス・センター(TIAC)などがタイ図書館界の草分けとなってきた。これらの機関の活動に追随して,後続の図書館もデータベースの開発を推進している。チュラロンコーン大学はバンコク内の全大学図書館を結び,Pulinetを通して地方大学図書館とも接続する「Thailinet-M」の開発を計画しており,NIDA(The National Institute of Development Administration)は,新たなキャンパス・ネットワークを1993年に始動させる計画である。
図書館ネットワークは図書館サービスの視野を,所蔵する情報から世界的資源へと拡大し,同時にサービスも,書誌事項からフルテキストの提供へと拡大した。タイの図書館が有する情報は利用者の要求を満たすには不十分であり,情報資源の充実が急がれるが,それと共に,今ある資源をいかに賢く利用するかが当面の問題である。この点で有効なリソース・シェアリングのための,円滑な図書資源の流通方法の模索が必要であろう。
中島尚子(なかじまなおこ)
Ref:Siripan, Praditta. Library networking in Thailand; a pursuit toward resource sharing. Asian Libr 3 (1) 11-19,1993