CA893 – レファレンス・ローバー:電子資源のためのフロアサービス / 松村千穂子

カレントアウェアネス
No.168 1993.08.20


CA893

レファレンス・ローバー
−電子資源のためのフロアサービス−

1989年秋,ボストン大学のオニール図書館で,「レファレンス・ローバー」なるものが創設された。レファレンス・ローバーとは,多彩な電子資源のまわりを見回って,利用者に使い方のポイントを助言するスタッフのことである。

電子資源の爆発的な増加により,図書館とその職員は参考業務の伝統的な方法を再検討する必要に迫られてきた。従来のスタッフが行ってきた参考業務の一部は,電子機器によって代られつつある一方で,利用者の側は,複雑多様な情報源をどのように使いこなせば良いのかわからなくなる,といった事態が生じている。レファレンス・ロービングは,このような利用者のニーズに応える効果的な方法であり,さらに参考業務の中で電子資源を適切に管理する方法として考え出された。

オニール図書館では,利用者が様々な電子資源とその各々の検索のしかたを理解するために,多くの援助を必要としていることを認識していた。一方,参考業務スタッフも,コンピュータの操作のしかたなど,本来の参考業務の仕事以外の利用者との応対に時間を割かれ,本来の業務に支障が出てきていた。この二つの問題を解決するために,電子機器が設置されているエリア内をスタッフが“徘徊(rove)”し,利用者が必要とする助力と指示を積極的に与えるべきだとの意見が出た。これによって,すぐにその場で助言を与えたり援助することができるので,レファレンス・カウンターにいる職員や電子機器を使う利用者の両方がイライラすることはかなり減るだろうと期待されたのである。

実施されてからしばらくして,2回に渡り利用調査が行われた。第1回目の調査では,実際に行った援助の種類とその回数を調べ,第2回目の調査では,無作為に抽出した利用者に面接をし,全般的な利用状況やサービスに対する意見を尋ねた。第1回目の調査結果から,援助の頻度が高い順にあげると次のようになる。1)検索手順 2)機械操作 3)コマンドなど,システムの操作方法 4)システムの全般的な紹介 5)画面の見方 6)適切なデータベースの選択法。第2回目の調査によると,90%の人がコンピュータの使用経験を持ち,71%の人が同じシステムを以前にも利用していたにもかかわらず,64%の利用者が援助を受け,そのうち98%が援助を有益だったと答えている。

当初,週に20時間(平日11:00〜15:00)で始められたレファレンス・ロービングは日に2時間増え,平日の午前10時から午後4時までに延長された。開始時から一年後,オニール図書館ではレファレンス・ロービングは時間と労力をかける価値があり,続けるべきだと結論を出した。

国立国会図書館においても,データベースの数は増え,それらを的確に認識し,情報を検索することは日頃業務で使用する者でも手間のかかる作業になってきている。昨夏洋図書データベースを検索する閲覧用オンライン目録の提供が開始された。筆者の所属課がこのオンライン目録の維持管理を担当する関係で,利用者の検索行動や状況を見る機会があった。ワープロが普及している今日,キーボード操作に戸惑う人はさすがに少ないが,得たい情報を的確に検索できているかという点では不安が残った。

膨大な情報を短時間で処理し,利用者と図書館員の双方に便利さと時間的余裕を与えた電子資源が,現在,その多様性故にテクノストレスを引き起している。コンピュータと図書館という新たな問題にレファレンス・ロービングは一筋の光を与えたと云えよう。

松村千穂子(まつむらちほこ)

Ref: Bregman, Adeane, et al. Reference roving at Boston College. Coll Res Libr News 53 (10) 634-637, 1992