カレントアウェアネス
No.168 1993.08.20
CA891
高齢者の読書要求−ピッツバーグにおける調査−
高齢化社会の到来に伴う様々な問題には,図書館も無関係ではいられない。米国では,1970年代初めに既に高齢者に対する図書館サービスの不足が指摘されていた。高齢者人口の増加に伴い,この問題は更に深刻化しているが,サービスの充実を計るには第一に,利用者の要望を把握する必要がある。L.アンダーソンら,ピッツバーグ大学図書館情報学部の学生は,高齢者の読書活動における興味と要求に関する調査を行った。以下に,その概略を紹介する。
高齢者が回答し易いように質問紙を工夫し,ピッツバーグの8ヵ所の高齢者センターに於いて配布した。総計167名分の分析可能な回答が収集された。調査対象となった集団の年令層は,50歳代から90歳代に渡り,70歳代が全体の31%を占め最も多かった。男女比は,女性が71%,男性が29%であった。
質問1と2は,回答者の読書習慣を問うものであるが,これに対し,74%が「毎日読む」と回答した。これまでの人生で現在が一番多く読んでいる時期だと答えた人は35%,以前と変わらずに読んでいるという答えも35%であった。
質問3は,好んで読む題材について尋ねている。結果は,56%が「時事問題」,53%が「健康」,39.5%が「料理」,35%が「霊感/宗教」を選び,以下「小説/物語」「工芸」,「歴史」,「旅行」と続いた。
質問4から7までは,読み物の入手方法を新聞,雑誌,図書,録音図書に分けて調べている。雑誌や新聞は個人的に購読している場合が多いが,図書については3分の1以上が友人等から借りている。この結果は読み物の入手方法に関して,高齢者自身が私的なネットワークを持っていることを示唆している。しかしながら,録音図書に関しては,71%が利用していないと回答している。
質問8は,より多くの情報を必要としている題材を尋ねている。最も関心が高かったのは「健康管理」(59%)で,次いで「旅行」(34%)「地方交通」,「保険/投資」,「ボランティア」の順であった。質問9は,8で選んだ情報をどのような方法で収集したいかという質問で,51%が読み物から得ることを望み,電話による情報提供を望む者は5%に過ぎなかった。質問10は,必要な読み物を全て手に入れることが出来るかについての問いであるが,これに関しては71%が日常的に入手出来ると答えている。
最後の質問は,公共図書館の利用に関するもので,11は図書館利用の際の障害についての問いである。これに対しては,32%が何の障害もないと答えている一方で,38%が公共図書館をまったく利用しないと回答している。12で問われている高齢者向けのサービスについては,センターでの特別プログラムとセンターヘの読み物の配達に対する要望が多く,拡大図書を希望する声も39%に上った。
今回の調査からは,自分の住む世界に興味を抱き,自分自身の健康管理に責任を持ちたいと望んでいる高齢者の姿が明らかになった。彼らは豊富な情報源を持ち,必要な資料や情報を入手出来るが,図書館は彼らの主な情報源ではない。この状況を踏まえると,地域の公共図書館は対高齢者サービスとして,資料の供給に主眼を置くよりも,時事問題や健康管理に関するプログラムを組んだり,拡大図書や録音図書の普及に努めるべきであると考えられる。
アンダーソンらは,他地域での同様な調査の必要性を強調しつつ,報告の結びとして,高齢者を画一的な集団としてではなく「様々な興味と要求を持った,活動的な個人として見做す」ように促している。
諏訪康子(すわやすこ)
Ref: Anderson, Laurie. et al. Reading needs of older adults: a survey. Wilson Library Bulletin 67 (3) 41-44, 98, 1992