カレントアウェアネス
No.166 1993.06.20
CA885
軍隊の図書館−超大型航空母艦における図書館の発達状況−
アメリカ合衆国には,空軍137,陸軍194,海軍154,合計485の「軍隊図書館」がある。
軍隊図書館の各館はそれぞれ,総合図書館,専門図書館,科学技術研究図書館,医学研究図書館,法律学術図書館として図書館サービスを提供している。各館は独立してサービスを行うが,国防総省図書館小委員会をはじめ,各種図書館関係団体を通じて交流がなされる。
海軍については,海軍図書館調整官が資料の共同利用の促進,技術指導,各図書館の連携を所掌する。「海軍総合図書館計画」は海軍および海兵隊の各総合図書館より構成されている。この計画により,海軍の図書館と海兵隊の図書館に対する支援,小規模の戦艦および潜水艦の参考図書やペーパーバックの収集が行われる。そして,地域図書館は技術指導と援助を行い,艦隊と沿岸警備隊の計画の調整を行う。
超大型航空母艦においては,図書館技術,情報技術の発達が顕著である。
史上空前の大型空母といわれる“ニミッツ級”の6番艦「ジョージ・ワシントン」は1992年に竣工した最新鋭艦である。この巨大な艦は洋上に浮かぶ一つの都市であり,病院,床屋,日刊紙発行所,放送局そして図書館までも揃っている。図書館には雑誌,参考図書,コンピュータソフト,ビデオカセット,CDが置かれている。なお,空母の中という特殊な環境を考慮し,ばねのついた可動式ブックエンドや書架の棚に沿って2インチのふちがついている。
図書館は朝7時30分から夜12時まで開館しており,一時間あたり60人から80人の利用者が読書のため訪れる。
艦という特殊な環境の中で,水兵は精神的にも肉体的にも非常に厳しい生活を送っている。従って,図書館担当士官である「艦付き軍牧師」の最も重要な任務は,水兵たちの心を安らかにし,日々の生活をやりおおせるように助けてやることである。
図書館運営は軍牧師の付随的業務である。初期は聖書の提供が中心であったが,現在では若い士官や水兵に基礎的かつ技術的な事柄を教えるようになるなど業務も拡大されてきた。
そして,戦艦の図書館が複雑化するにつれ,軍牧師も専門家の必要性を認識するようになり,専門の水兵を配置するようになった。専門家として選ばれた水兵は,宗教活動や図書館運営をはじめとする軍牧師の業務を補佐する。選ばれた水兵のうち未経験者は業務処理,排架方式,貸出管理,新技術などについて学び,経験者は簡易な目録法,分類法,人事・研修などの管理業務についてマスターしなければならない。
コレクションで特徴的なのは,海事及び航空作戦,言語,慣習,地理,政治等である。収集にあたっては,利用者である士官および水兵が要望する資料と業務上必要とされる資料のバランスをとることが重要とされる。実際には,コレクションの60%はノンフィクションで,残る40%がフィクションとなっている。
「海軍教育訓練首席担当官」が購入図書の選定をし,開館時に3,200タイトルが選ばれた。首席担当官は参考資料の編集・送付を行い,また,ビデオ,CD,コンピュータソフトの収集の完了を目指している。
さらに,ジョージ・ワシントンにおける図書館運営上の最終的な目標は,光ファイバーケーブルを敷設し,オンライン目録を備えるコンピュータネットワークを作ることである。
このように,図書館は空母の中にあって,最も重要な施設となっている。ジョージ・ワシントンの図書館は艦上の図書館の発達状況を顕著に示していると言えるだろう。
田中嘉彦(たなかよしひこ)
Ref: Pollok, Karen E. The USS George Washington: State of the art in seagoing libraries. Am Libr 23 (11) 922-924, 1992
Dankan, Tony. Armed Forces Libraries. ALA Yearbook of Libraries and Information Services. 46-47, 1989
Bowker Annual of Library & Book Trade Information. 400-401, 1992