CA845 – 共同保存図書館:最近の動きから / 井手隆英

カレントアウェアネス
No.160 1992.12.20


CA845

共同保存図書館−最近の動きから−

今世紀後半における時代のテンポの早まりと情報の国際的ひろがり等の周辺状況の変化は,図書館が扱う資料情報量の加速度的増加と多様化を招き,図書館運営に本質的変革を迫ることになった。資料購入費・人件費・建築費用の膨張,保管のスペースの狭隘化,加えて利用者のニーズの多様化は,新しい図書館間協力システムの構築を必然のものとした。

最初の保存図書館がアメリカ東部ボストンに創設されたのは1941年であった。New England Deposit Libraryがそれであるが,利用の少ない図書館資料の単なる貯蔵庫から一歩進んで,より多角的な図書館間の協力機構としての本格的保存図書館は,1949年にシカゴに設立されたMidwest Inter-Library Corporationである。現在は名称をCenter for Research Librariesと改称しているが,アメリカ,カナダの大学,調査研究機関,公共図書館の136館が参加する施設として活動している。

わが国では,1950年代から外国の事例の紹介に止まらず,保存図書館設置についての提案,研究論文発表,設置運動が継続されてきているが,保存図書館の在り方の一事例として最近の北欧2国の動向を紹介したい。

●フィンランド  調査研究図書館のスペース不足の問題をきっかけに1940年代に共同保存図書館設立の動きがあったが,1955年にヘルシンキ大学の施設として25館が参加した最初の保存図書館が設立された。同館の現在の書架延長は33kmに達している。

1970年代に国内の図書館における書架スペース不足問題が再燃し,1979年に教育省は科学情報・調査研究図書館会議に対し大学図書館における蔵書の増加予測,追加スペース計算および解決策と所要コストの提示を求めた。同会議は現状では年々合計10kmの書架を新規に必要とすること,これを各図書館がそれぞれ増築することはたいへんな浪費であり,職員の増員を伴うことを指摘した上で,最も経済的で妥当な選択として共同保存図書館による稀利用資料の集中貯蔵を勧告した。また公共図書館側ワーキンググループは,国立の施設としての共同保存図書館は公共図書館と調査研究図書館との共同保存施設であるべきである,とする提案を行った。

およそ10年を経て1989年3月,国立保存図書館(National Repository Library:以下NRL)法が施行された。同法では,NRLは教育省に属し,調査研究図書館および公共図書館から利用が少なくなった資料を移管集積し,求めに応じて各図書館への貸出しを行うことをその目的とする。移管資料の所有権はNRLに移る。またNRLはその他の関連分野の業務を行うことが可能であると定められている。

同年に活動を開始したNRLの概要は,建物3,081m2,書架延長28km(将来は10倍に拡張可能),ほとんどが集密書架である。移管資料は国有鉄道で配達され,NRLが料金を支払う。原則として各出版物の各版を1部所蔵する。コンピュータ目録に入力するが,簡単な記述とし分類は行わない。目録は各図書館が無料で利用できる。現在の職員は20名である。書庫内の排架は図書と逐次刊行物に分け,その中を資料のサイズによって3区分し一連番号を付している。創立2年目を迎えようとしている現在,15kmの書架が満たされているが,その所蔵資料の出自比率は大学図書館77%,その他の調査研究図書館15%,公共図書館8%となっている。1991年の貸出し件数は1,000件であったが,急速に増加しており,創立5年目には1万件を超えるものと予測されている。

法に定められた関連業務としては,重複資料を図書館間で再配分する業務をオンラインを使って試行している。

●デンマーク  1968年に最初の保存図書館が王立図書館学校内に設置され活動してきたが,1983年成立の新図書館法によって,公共図書館のための保存図書館(Danish Repository Library for Public Libraries)が文化省所管の国の機関として設立された。法律に定める保存図書館の業務は,国内の公共図書館から移管された図書館資料の受入,保管,貸出し,余剰資料の図書館間再配分を含む処分となっている。

新館はコペンハーゲンの中心から20kmの地に8,000m2の平屋として建設された。書架延長は36km(60kmまで延長予定)。書架は作業上の便利さを考慮して集密書架ではなく通常書架とした。91年の統計では職員20名,蔵書53万点,年間増加3万点余り,貸出し冊数7万点である。

資料排架は受入順が経済的であり,また検索の点では同一タイトルの全部数が一か所に揃っていることが望ましい。しかし,必要部数を同時に受入れることは期待できないので,受入順による排架とはせず,前身の王立図書館学校時代からのやり方を継承して,フィクション,ノンフィクション,逐次刊行物の3群に分け,その中をタイトルのABC順に排架している。書庫内には他に登録までの到着資料置き場,再配分用資料置き場,再配分後の余剰資料置き場,および将来予定しているレコード・音楽テープ・録音図書のための区画がとってある。

前身時代から新図書館の発足後しばらくまで蔵書目録がなく,このため貸出依頼の40〜50%が所蔵しない資料の請求である一方,所蔵資料が利用されずに眠っているという状況であったが,とりあえず事務用目録をマイクロ化して国内に配布した結果,2年間で50%の貸出し増となり,無駄な請求は5%に急減した。保存図書館にとって所蔵情報の提供が不可欠なものであることを実証していて面白い。今後コンピュータ目録の作成を予定している。

以上二つの保存図書館に共通している目新しい特徴として,1)国立の機関として法律によって設けられたこと,2)資料がその所有権ごと移管されること,3)移管,利用にかかる運送費を含む一切の料金を保存図書館が負担すること,の3点を指摘することができる。

井手隆英(いでたかふさ)

Ref: Bloss, M.E.CONSER: The Center for Research Libraries' approach. Serials Review 17 (2) 61-62, 1991
Jylha-Pyykonen, A. The Finnish National Repository Library. Scandinavian Public Library Quarterly 25 (2) 18-20, 1992
Henriksen, C.H. The Danish Repository Library for Public Libraries. Ibid. 21-24