CA837 – 21世紀における研究図書館−KIT-LC国際セミナー− / 千代正明

カレントアウェアネス
No.158 1992.10.20

 

CA837

21世紀における研究図書館−KIT-LC国際セミナー−

金沢工業大学ライブラリー・センター(KIT-LC)主催の国際セミナーは,今年で11回を数える。今回は「21世紀における研究図書館」をテーマに,6月18日−20日の3日間同大学で開催された。アメリカ,ドイツから5人の講師を迎え,国内の図書館関係者約100人が参加した。18・19の両日は,講師のペーパー発表と若干の質疑,20日にはこのセミナーのハイライトである午前・午後にわたる質疑応答が行われた。

講師の顔触れと発表されたペーパーは以下の通りである。

ウエルシュ・元米国議会図書館副館長:研究図書館における技術革新の役割
エイベル・エール大学図書館長:研究図書館の資料
ドーティ・ミシガン大学大学院図書館学校教授,前米国図書館協会会長:1990年代の図書館像を求めて−期待されるもの−
ラッカー・マサチューセッツ工科大学図書館長:場所としての図書館
ゲー・IFLA名誉会長:ヨーロッパ統合に関するライブラリアンシップの動向

ここでは最終日の質疑応答から,参加者の関心を集めた問題を振り返ってみたい。

質問は次の二つに大別された。一つは情報メディアの多様化が研究図書館にいかなる影響を及ぼすかであり,もう一つは研究図書館を取りまく環境の変化に関するものであった。前者はさらに,図書館員の役割の変化,図書館員教育への影響,蔵書構成のあるべき姿,有料化の問題,そしてリソース・シェアリングとネットワークの構築等に細分される。後者は情報流通の問題に関心が集中し,それを妨げる言語バリアや第三世界における情報インフラの未整備が論じられた。

*情報メディアの多様化と図書館員の役割の変化:簡単な事実情報の提供は,ニューメディアによる情報の自動販売機を利用すれば済むようになる。図書館員はレファレンス,情報の解釈・評価に専念するようになり,ユーザーに対するナビゲーターの役割を果たすことになる。今後の図書館員に求められるのは,資料に対する能動的な対応である。

また端末の前のユーザーに対する仲介者的な役割も重要となる。技術はそれぞれの図書館がその役割,費用対効果等を考えて慎重に選択すべきであるが,その際あくまでユーザーフレンドリーな使い方が考えられねばならない。

情報メディアが多様化する一方で,ニューメディアの恒久性が不確定なだけに,資料の保存の問題にも大きな影響をもたらすことになる。

*メディアの多様化に対しいかに蔵書を構築するか:印刷媒体か電子出版物を選ぶかは,各図書館のスペースや予算に左右されるが,両者共購入できる予算を持つ図書館はほとんどない。ヨーロッパでは原則として安価な方を入手し,予算の有効利用を図っている。

ニューメディア化された場合のオリジナル資料の保存は,一般的に論じることはできない。

アメリカでは資料をどこが持っているかではなく,それへのアクセスが可能か否かが問われるようになっている。そのためにも特定分野の蔵書を持つ図書館同士のネットワークにより,所蔵資料の重複を出来るだけ解消するよう努めなければならない。

*図書館情報サービスの有料化:図書館の基本的サービスは無料が原則であるが,付加価値分については受益者負担が妥当というのが大方の意見である。ただし何が付加価値であるかについては,引続き慎重に検討されねばならない。サンフランシスコ公共図書館では,全ての利用者に対して可能なサービスは無料,特定の人だけへのサービスは有料との原則を設けている。

研究図書館がそのサービスを無料で提供できない場合その選択は二つしかない。サービスの提供を止めるか,有料化するかである。もちろん有料化するに際しては,できるだけリーズナブルな価格の設定が重要である。

今回のセミナーは,直前に亡くなられた「国際セミナー」の生みの親,酒井悌KIT-LC館長とモーハート同名誉館長への黙祷で始まった。このセミナーが10年にわたり続けられ,多くの参加者を通して我が国の図書館,特に大学・調査研究・専門図書館の発展に大きく寄与してきたことはお二人の熱意に負うところが大きい。記してご冥福を祈るものである。

千代正明(ちよまさあき)