CA827 – 米大統領候補者は図書館をどう見るか / 佐藤幹子

カレントアウェアネス
No.157 1992.09.20


CA827

米大統領候補者は図書館をどう見るか

今年11月に行われるアメリカ大統領選挙は各方面で大きな話題になっているが,図書館関係者も無関心ではいられない。大統領が図書館の問題をどう考えているかによって,予算や政策も変わってくるからである。ジョージア州マーサー大学図書館のジャニス・M・バンデリン女史は,大統領候補者を対象に図書館に関するアンケートを行った。質問は次の5問である。

1) 米国の教育,政治体制の維持に図書館はどのような役割を果たしているか。

2) レーガン・ブッシュ政権は図書館関係予算を削減してきた。政府は資金提供の点でどれだけの役割を果たすべきか。

3) 図書館情報サービスの民営化ないし民間委託についてどう考えるか。

4) 図書館は初等,中等教育の改善にどのような役割を果たしているか。

5) 議会は最近NREN(National Research and Education Network)を作る法案を可決した。これは,より迅速な情報伝達をめざし,何百もの大学や研究所,図書館を結びつける通信ネットワークである。教育・研究・ビジネスの発展に,このネットワークがどのように役立つと思うか。

このアンケートに対して,昨年末までに4人の民主党の候補者から回答が寄せられた。ビル・クリントン・アーカンソー州知事,ポール・ソンガス元上院議員,トム・ハーキン上院議員,ボブ・ケリー上院議員である。

1) 4) 4人とも図書館が教育上大きな役割を果たしており,アメリカの民主的な政治機構がその上に成り立っていることを認めている。子供や学生に利用されるのはもちろん,大人のための生涯学習の場としても重要である。それだけに,読み書きのできない人の教育は重大な問題としてとらえられており,公共図書館の働きが期待されている。

2) 政府は図書館が十分なサービスを行えるよう資金を供給すべきだという点で意見が一致している。ハーキン候補は,ブッシュ政権が図書館予算の中から識字教育に資金をまわし,結果的に図書館予算を削減していることを強く批判している。ソンガス候補も資金不足による公共図書館のサービス低下を嘆いている。

3) 図書館情報サービスは不可欠の公共サービスであり,国が責任を持つべきである,という認識では一致したものの,民営化・民間委託には基本的に反対であるとするハーキン候補,ケリー候補と,サービスの充実に役立つならば可とするクリントン候補,ソンガス候補とに分かれた。

5) NRENについては,教育・研究活動における情報ネットワークの重要性が強く認識されており期待が大きい。技術革新による社会の変化は,人々が情報にアクセスし,利用する必要を増し,図書館がその中心に位置するのである。

ブッシュ大統領の回答は3月に入ってから届いた。その概要を紹介する。

1) 教育は民主主義社会の市民の育成に欠かせないものであり,情報は民主主義最大の武器,希望である。今日,15,000以上の公共図書館が人口のほぼ70%に利用されており,資料の貸出しは毎年13億冊にのぼる。図書館は生涯学習の場,未来への基地である。

2) 政府はすでにいくつかのことを成しとげている。まずNRENを作り,図書館や研究・教育施設に対して迅速なコンピュータ処理を可能にした。さらに,1993年度の政府予算には,成人に読み書きを教える公共図書館プログラムの援助,及び,識字教育のためのモデル施設の設立と維持のための助成金が含まれている。

3) 民営化・民間委託はそれが図書館サービスの改善につながるのであれば,適切だと考える。

4) 昨年我々は,新しい教育計画America2000を策定した(CA781参照)。アメリカは教育革命を必要としており,図書館情報サービスはその中心である。この計画は,国民すべてに自覚を促し,新しい学校を作り,我々の社会を学問の場に変えるよう働きかけるものである。私は図書館情報ネットワークの改善ならびにAmerica2000計画の推進を約束する。

5) 高性能コンピュータとコミュニケーション技術の発達によって,将来すべてのアメリカ人の労働や学習,コミュニケーションの方法が変わる可能性がある。アメリカ社会の持つ,自由,革新,進取的精神といった特性が,アメリカが情報技術で世界に抜きん出ることを可能にした。NRENはこのリーダーとしての地位をさらに確かなものにするであろう。企業は政府機関や研究所と協力して計画,資金の供給,経営を行う。そして,このネットワークの成果は早急に教育や商業活動に活かされることになろう。

技術の発達に伴い,図書館の役割はますます重要になっていくだろう。情報ネットワークの中心として機能する一方,読み書きのできない人の教育も図書館に求められている。大統領選挙の行方が気になるところである。

佐藤幹子(さとうみきこ)

Ref: Bandelin, Janis M. U.S.Presidential candidates comment on library issues. Am Libr 23 (2) 182-185.1992
Bandelin, Janis M. President Bush comments on library issues. Am Libr 23 (5) 361, 1992