CA781 – 第二回図書館及び情報サービスに関するホワイトハウス会議―特色と背景― / 堂前幸子

カレントアウェアネス
No.149 1992.01.20


CA781

第二回図書館及び情報サービスに関するホワイトハウス会議
−特色と背景−

米国大統領が召集して開催する「図書館及び情報サービスに関するホワイトハウス会議(略称WHCLIS)」は,全米にわたる多数の市民の声を結集する場であり,しかも10年に1度しか持たれない場であり機会である。1991年の第二回会議は実際には第一回から12年を経て開かれたのであるが,この間,8年間にわたるレーガン大統領による緊縮財政運営,教育関係予算の削減を経験して,現在のブッシュ大統領へと政権の交代があり,それに伴う米国政府の政策の変化があった。「教育大統領」の異名を持つブッシュ大統領は1989年9月,全米50州の知事を集めて教育サミットを開催し,「2000年までに達成すべき教育の国家的目標」を設定した。さらに1991年4月には,「2000年のアメリカ」と題する大統領演説によって,国家的目標を達成するための総合戦略を表明していた。この国家的目標とは次の6項目である。

  1. 米国のすべての子供は,学ぶ準備を整えて就学する
  2. 生徒の高校卒業率を90%に高める
  3. 第4,8,12の各学年の児童・生徒は,英語,算数・数学,理科,歴史,地理の各教科において,一定水準の学力を習得して進級する
  4. 米国の児童・生徒は,理科および数学のアチーブメントテストで世界一となる
  5. 米国の成人市民の識字率を100%にする
  6. 米国のすべての学校で麻薬と暴力を追放する

なお,5.の識字運動に関して,7月2日に「国民識字の日」が布告され,同月25日に「1991年国民識字法」が制定されている。

今回の第二回会議は,「2000年のアメリカ」に代表される80年代からの教育改革の波をとらえ,また,教育改革を促したアメリカ産業の生産力,国際競争力の強化といった現実の政策目的に沿って,図書館をそれらの重要な戦略拠点として訴えている点が大きな特色である。会議の性格や第二回会議の概要については,本誌CA771が詳しく紹介しているので,ここでは会議で最終的に採択された勧告を整理し,特徴を表わす内容を拾ってみた。

1 権利と図書館

プライバシーを守る権利,知る権利,情報の自由など,市民の自由権を図書館資料と図書館行政において問い直し,徹底させている点が注目される。

現行のプライバシー関係の法令に基づき,図書館資料を利用する際のプライバシーを守る権利を保障する法律を制定する。制定にあたっては,アメリカ図書館協会による宣言と判断を尊重する。情報の自由法を改正して,連邦政府が受理し,公費で発行するすべての刊行物に市民が確実にアクセスできるようにする。連邦政府刊行物の寄託図書館制度を発展させて,現用の一時的資料と電子化情報へのアクセスを可能にする。公的情報たる行政資料は広く,時機を逸することなく,無料で制約なしにアクセスできるよう図る。

連邦議会は全米情報政策を策定することで,図書館が自由で民主的な社会にとって不可欠な教育施設である旨を明らかにし,また,読書の自由とプライバシーの権利を確実に保証する。

2 2000年のアメリカ

図書館を教育改革運動の中核に位置づけ,連邦の図書館予算を増やし,同時に,図書館が市民の生涯学習のための教育施設であることを正式に認めさせる。これによって成人の教育訓練,児童サービス,非識字解消活動に対する財政支出が容易になるだろう。

連邦教育省は,図書館と地域社会との関係について調査と評価を行い,モデルを作成する。アメリカの労働生産性を上げるに際して図書館の有効度をいっそう高めるために,このモデルを活用しながら努力する。

大統領は,「2000年のアメリカ」戦略の推進機構に図書館を加える。

3 多文化・多言語サービス

アメリカインディアン,アラスカ先住民,ハワイ先住民等のアメリカ先住民を含め,これまで図書館・情報サービスを十分に享受できなかった人たちに対し,利用の促進を図る。多文化・多言語サービスを展開する図書館への財政的,技術的援助を行う。全米規模の多文化・多言語資料のデータベースを作製する。障害を持った人たちも併せて,多文化,多言語の人たちの図書館への就職を奨励し,また,図書館情報学の教育,職員の再教育を支援する。

最後に,第二回会議の勧告を第一回会議と比較しておく(CA007参照)。非識字の解消,アメリカ先住民に対する図書館サービスの推進等,基本のところでは変わらないが,個別にみれば異同がある。第一回会議では国際事情研究センターの設置,全国図書館法制定が盛られていたが,第二回会議においては全米研究・教育ネットワーク(NREN)の構築,資料保存政策の策定が勧告された。マイノリティーへの配慮は,第一回会議においても先住民を取り挙げてはいたが,第二回会議になると多文化・多言語主義を前面に打ち出しており,変化がみられる。

堂前幸子(どうまえさちこ)

Ref: White House Conference adopts 97 recommendations. Information Hotline 23 (7) 6-13, 1991今村令子 転換点に立つアメリカの教育 教育と医学 39 (10) 49-54, 1991
内外教育 1991.10.22